部屋の影響で失われたスピーカー本来の音をよみがえらせる装置がルームイコライザーです。スピーカーがどのような影響を受けているかは部屋によって全く異なるので、部屋ごとに最適化したイコライジングカーブを与えることではじめてスピーカーのポテンシャルを発揮することができます。
ルームイコライザーは単体の専用機からPCを使ったものまで多用な形態があるので、様々なオーディオシステムに柔軟に組み込むことができます。
ルームイコライザーの種類
ルームイコライザーを利用するには主に次のような方法があります。
ルームイコライザー対応プレーヤー
ルームイコライザー対応プレーヤーとは、ルームイコライザー機能を内包することができるプレーヤーです。
Volumio、Roon、JRiver Media Center、Eversolo DMP-A8は標準でコンボリューションエンジンを搭載しているため、オーダーメイドの畳み込みフィルター(コンボリューションフィルター)をプレーヤーに読み込ませるだけで部屋の音響特性に応じて最適化された再生をしてくれる便利で優れたプレーヤーです。Trinnovのようなハイエンドオーディオで使われるルームイコライザーに勝るとも劣らない最先端のイコライザーは決しておまけ的な存在ではありません。
ルームイコライザー専用機
Trinnov NOVAはルームイコライザー専用機です。専用の測定用マイクを使ってイコライジングカーブを生成し、再生に摘要する点は専用機ならではのものです。通常はプリアンプとパワーアンプの間に接続します。
イコライザーを装備したオーディオインターフェイス
Universal Audio Apolloシリーズは、豊富な種類のイコライザーを選択できる柔軟な設計のオーディオインターフェイスです。
Apolloに搭載されているDSPには様々なシグナルプロセッサーをプラグインとして読み込ませることができるため、好みのイコライザーをチョイスできます。
Apolloに無償バンドルされるPrecision Channel Stripはルームイコライザーにも適したパラメトリックイコライザーです。
ライセンス購入で追加できるBrainworx bx_digital V3 EQ Collectionは数種類のパラメトリックイコライザーをバンドルしています。
PC
PCはルームイコライザーとして利用することができます。既にPCオーディオを利用しているなら使っているソフトやハードに適合するルームイコライザーをソフトウェアで構築することができます。
ルームイコライザー専用ソフト
ルームイコライザーの経験がなくても比較的容易に導入できるのがルームイコライザー専用ソフトです。
IK Multimedia ARC System 3はルームアコースティックのキャリブレーション用イコライジングカーブを作るための測定用マイクとソフトがパッケージになった製品です。イコライジングカーブが有効となる対象はVSTプラグインまたはAUプラグインに対応したソフトウェア(TuneBrowser、JRiver Media Center等)です。
VST/AU(Audio Units)プラグイン
VSTプラグインまたはAUプラグインには数多くのイコライザ―がありルームアコースティックのキャリブレーションとして利用することができます。ARC System 3同様にVSTプラグインまたはAUプラグインに対応したソフトウェアが動作対象となります。市販楽曲の制作時に使用されるプラグインの種類は豊富で、老舗となるWAVESをはじめとするブランドはお墨付きの品質であると言えます。
左:IK Multimedia EQual、中:WAVES H-EQ、右:SSL Native X-EQ 2
システムイコライザー
前述のVSTプラグインやAUプラグインのイコライザーの場合はプラグインに対応したソフトウェアがイコライジングカーブの適用対象であることに対して、システムイコライザーはPCのOSが受け持つサウンド全般が適用対象です。YouTube等のWebブラウザ動画の音声もSpotify等の音楽サブスクもイコライジングカーブの対象になります。
WindowsにはVoiceMeeter、VoiceMeeter Banana、Equalizer APO等のシステムイコライザーがあります。
MacにはeqMac等のシステムイコライザーがあります。
- VoiceMeeter Banana(Windows)
- Equalizer APO(Windows)
- eqMac(Mac)
コンボリューション(畳み込み)
コンボリューションはイコライジングカーブをデータとして持たせることで再生音にイコライジングカーブを適用することのできる仕組みです。音圧周波数特性のイコライジングカーブの他にも位相周波数特性のイコライジングカーブを持たせてリニアフェイズ化することもできます。roon、Volumio、JRiver Media Center、Equalizer APO等がコンボリューションに対応しています。
ルームイコライザー搭載アクティブスピーカー
アクティブモニタースピーカーにはルームイコライザーを装備した機種があります。ルームイコライザーを装備したアクティブスピーカーを利用するメリットは、ルームイコライザーの存在を意識することなくソース本来の音に復元して再生してくれることです。イコライジングカーブをオンオフできるのは勿論のこと、イコライジングカーブを数パターン記憶して切り替えられる機種もあります。
あわせて次の記事をご覧ください。
汎用の単体イコライザー
単体機のイコライザーはルームイコライザーとして利用することができます。接続はルームイコライザー専用機と同様にパワーアンプの直前です。
ART EQ355は31バンドのステレオグラフィックイコライザーです。
elysia museqは、チャンネルごとに3バンドのパラメトリックイコライザーとロー/ハイシェルビングフィルターを持つハイエンドのステレオアナログイコライザーです。
ルームイコライザーの接続位置
前述のとおりにルームイコライザーは様々な方法で導入することができます。
ルームイコライザー専用機と単体イコライザーの接続位置
Trinnov NOVAやART EQ355などの単体機の場合は、オーディオシステムの全てのソースに対して補正イコライジングしたいので、ルームイコライザーはパワーアンプの直前に接続します。
プリメインアンプの場合はライン入力にルームイコライザーを接続しますが、ATOLLのプリメインアンプ(またはプリアンプ)はイコライザーを接続するための機構が備わっているため、プリメインアンプの全ての入力にイコライジングカーブを適用することができます。ルームイコライザーのために入力端子をふさぐこともありません。
ATOLLのプリメインアンプIN50 Signature/IN100 Signature/IN200 Signatureは、テープ入出力端子とテープモニターモードを使ってルームイコライザーを接続することができます。
PCオーディオのルームイコライザー
PCオーディオの場合は、オーディオインターフェイスにルームイコライザーを持たせるパターンとPCのソフトウェアにルームイコライザーを持たせるパターンがあります。
上図のとおりにルームイコライザーを持たせることのできるオーディオインターフェイスは、ルームイコライザーとDACの役割を果たします。
オーディオインターフェイスはDAC機能が備わっているため別途DACは必要ありませんが、DACとしては別のアイテムを使いたい場合があります。例えば、DACを内蔵したプリメインアンプを使いたい場合は、オーディオインターフェイスからデジタルでプリメインアンプと接続する方法があります。
PCのソフトウェアにルームイコライザーを持たせる場合は、音楽再生ソフトにルームイコライザーを適用するパターンと、PCのシステム全体にルームイコライザーを適用するパターンがあります。
音楽再生ソフトにルームイコライザーを適用するパターンの場合は、それ以外のソフト(YouTube、Spotify等)はルームイコライザーは適用されません。
PCのシステム全体にルームイコライザーを適用するパターンの場合は、あらゆるソフト(YouTube、Spotify等)がルームイコライザーの適用対象になります。
まとめ
以上のようにルームイコライザーはスピーカーを使った音楽リスニングをはじめ、楽器演奏(電子・電気楽器)やDTM等の音楽制作において無くてはならない存在です。ルームイコライザーの種類は多種多様ですから目的に応じたものを選ぶようにしましょう。
イコライジング方式としてのベストソリューションはFIRフィルターによる畳み込みですから、Roon・Volumioなどを使っているのなら畳み込みを利用しない手はありません。畳み込みはファイル再生やストリーム再生の他にもレコード再生やCD再生をはじめとして広範囲に利用することができます。
畳み込みによるルームアコースティックの改善については次の記事もあわせてご覧ください。