オーディオのライトサイド

スピーカーの音が劇的に良くなるルームキャリブレーションの畳み込み

アイキャッチ画像

スピーカーで高音質に音楽を聴くための最善の方法をご存じですか?唯一の答えは部屋の音を良くすること1です。オーディオ機器の変更/ケーブル・インシュレーターその他のアクセサリーの導入効果は期待できず、運良く僅かな効果を得たとしても対処療法にしかなりません。

スピーカーの音は壁・床・天井で跳ね返り(反射音)、リスナーは直接音と共に反射音を聴いています。この反射音が曲者でソース本来の音質を大幅に損ねる原因となっています。

部屋の反射音により損なわれた音質を回復する方法として、かつては音響的に対策を施したオーディオルームを作るという手段がありました。一見理想的に思えるオーディオルームですが、1. 莫大な費用を伴う/2. 賃貸住宅やマンションでは実現困難(ほぼ無理)/3. 模様替えその他の室内環境の変化に追従できない、などのデメリットがあるためほとんどの人にとっては現実味のない手段と言えるでしょう。※これが理由でオーディオから遠のく(またはヘッドホンに傾倒する2)ケースも多々あります

オーディオルームのデメリット

  • 莫大な費用
  • 賃貸住宅やマンションでは実現困難(ほぼ無理)
  • 模様替えその他の室内環境の変化に追従できない

今日では反射音により損なわれた音質を回復する方法として音響測定の解析結果を元にデジタルフィルターを作り再生系に畳み込む手段(コンボリューション)が存在します。VolumioroonJRiver Media Center、Equalizer APOのユーザーであれば、設定項目の中に「畳み込み」や「コンボリューション」の用語を見かけた事があるかもしれません。

  • 畳み込み=コンボリューション
VolumioのConvolution機能(プラグイン追加)
VolumioのConvolution機能(FusionDSPプラグイン)
roonの畳み込み機能
roonの畳み込み機能
Equalizer APOのコンボリューション機能
Equalizer APOのコンボリューション機能
JRiver Media Centerのコンボリューション機能
JRiver Media Centerのコンボリューション機能

この畳み込み(コンボリューション)の設定項目にFIRフィルター(デジタルフィルターの一種)のファイルを読み込ませることで、部屋が原因で失われた本来の音質を回復することができます。コンボリューションによるルームキャリブレーションはオーディオルームと異なり誰にでも利用できる先進的でリーズナブルなベストソリューションです。

目次

コンボリューションを使うメリット

それではコンボリューションによりどのようなメリットがあるのかを紹介していきます。

実際の音でビフォーアフターを掲載しただけでは具体性・客観性に欠けるため、ビフォーアフターの測定値をグラフとしてビジュアルに掲載しました。追々、音でも聴けるように更新する予定です。

周波数特性の癖を除去

普段リスニングしている位置での周波数特性を測定すると、スピーカーのカタログスペックとは似ても似つかない結果となります。リスニングルームの場合は前述のとおり部屋の反射音の影響が多大に加味されますが、カタログスペックの周波数特性は反射音の無い特殊な空間(無響室)で測定しているからです。

ここで述べる周波数特性は音圧周波数特性のことです。音圧周波数特性とは周波数に伴った音の大きさを表す周波数特性のことで横軸が周波数、縦軸が音圧のグラフを用います。

キャリブレーション前の元の周波数特性は左右チャンネル共に200Hzあたりの最大ピークを筆頭に随所で音圧レベルが暴れているのに対して、デジタルフィルターによるキャリブレーションで周波数特性が大きく修復されていることがわかります。90Hzあたりを筆頭にディップ(谷)の修復も見逃せません。

スピーカーを含めたオーディオシステム全体の周波数特性がフラットであるということは原音再生(ソース本来の音)の重要な要素の1つですから、コンボリューションによりオーディオシステムの周波数特性は理想の状態に近づいていることがわかります。

聴感上で好ましければ必ずしもフラットである必要はありません。極端なピークやディップを解消することが何より重要です。

左右チャンネルの周波数特性の均等化

ルームアコースティックを意識せずにいると、左右に置かれたスピーカーは同じ型番の製品だから周波数特性も同じであると勘違いしがちです。確かにスピーカーそのものの特性は個体差による僅かな違いに留まるかもしれませんが、実際に聴いている音の周波数特性(伝送周波数特性)は測定結果からわかるように大きく剥離しています。この結果、ステレオの音像定位が曖昧になり空間表現能力が低下したピントのあまいぼやけた音(ベールのかかった音)になります。モノラル音源を再生しても本来のモノラル再生からは逸脱して妙な疑似ステレオになってしまうことが理解できます。

左右チャンネルを重ね合わせて表示するとキャリブレーション前はピークやディップの他にも左右チャンネルの特性が明らかに異なっていることがわかります。まるで左右に異なるスピーカーを使っているかのようです。デジタルフィルターによるキャリブレーションで左右チャンネルの周波数特性の差異が大きく緩和されていることがわかります。

左右チャンネルの周波数特性のばらつきはリスニングポジションを含め部屋に対して左右対称にレイアウトすることで多少なりとも軽減させることが出来るかもしれませんが、壁の材質や窓の有無、家具等を含めシンメトリーにすることは非現実的です。コンボリューションを使ったデジタルフィルターによるイコライジングならではの解決手段です。

トランジェントの向上

トランジェント(過渡特性)はオーディオシステムで音楽を再生する上で周波数特性と共に重要な要素です。楽器の種類や奏法によって音の立ち上がり立ち下がりのスピードは様々ですから、楽器のスピードに追従できるトランジェントに優れたオーディオシステムは再生のリアリティが増します。アタックの強いドラムなどは音が瞬時に立ち上がりスパッと消えてこそリアリティを感じることはできますが、多くの場合はこうはなりません。(アンプの駆動力とかで解決できる話ではありません)

トランジェントの優れたシステムは何でもかんでも瞬時に立ち上がり瞬時に立ち下がる訳ではありません。本来の楽器に忠実にアズイズで再生するシステムがトランジェントの優れたシステムです。タムやティンパニ等の打楽器のしなりながら減衰する音の表現力が増します。

瞬時に立ち上がり瞬時に立ち下がる論理的な音はインパスルと呼ばれ、インパルスに対するオーディオシステムの応答(インパルスレスポンス)をグラフ化することで特性を知ることができます。

インパルスレスポンスについてもデジタルフィルターによる明らかな改善が見られます。

位相特性の改善

雑誌やネット記事などのオーディオ機器の論評で見かける意味不明の表現の1つに「位相の揃った音」があります。位相特性は位相周波数特性としてグラフ化することができ、周波数の変化に伴う位相(単位は角度)の変化を知ることができます。位相周波数特性の良し悪しは音圧周波数特性に比べてわかり辛いかもしれませんが、ソースによっては低音楽器のリアリティにつながっているように感じます。

キャリブレーションにより低音から高音にわたる全帯域において位相周波数特性が大幅に改善されています。位相特性の改善に及んではコンボリューションによるデジタルフィルター処理の独断場と言うことができるでしょう。

数十年前にリニアフェイズスピーカーとして登場したスピーカーとは別次元の位相の改善です。

位相特性の改善はFIRフィルターによるコンボリューションのメリットの1つです。アナログ/デジタルのイコライザー(IIRフィルター)はイコライジングにより位相が歪みます。

PEQ搭載DAコンバーター、AD/DAコンバーターによるキャリブレーションの限界

パラメトリックイコライザー(PEQ)を搭載したDAコンバーターやAD/DAコンバーターによるルームアコースティックキャリブレーションは、FIRフィルターによるコンボリューション(畳み込み)の代替手段とはなりません。その主な理由は2点あります。

思うようなイコライジングカーブが作れない

DAコンバーターやAD/DAコンバーターに搭載されたPEQの多くは4~5バンド程度のイコライザーであるため、FIRフィルターのように思うようなイコライジングカーブが作れない。

次のグラフは5バンドパラメトリックイコライザーによる補正イコライジングカーブの例です。パラメトリックイコライザーは幾何学的なイコライジングカーブを作るため複雑なカーブにするにはより多くのバンド数を必要とします。

20バンドのPEQを使うとより複雑なイコライジングカーブ(下のグラフ)を作ることができます。※20バンドPEQを搭載したDAコンバーターやAD/DAコンバーターの存在は知りませんが、ソフトのイコライザーであれば20バンドPEQも不可能なことではありません。

FIRフィルターはパラメトリックイコライザーとは構造の概念が異なり緻密で理想的なイコライジングカーブ(下のグラフ)を作ることができます。

5バンド/20バンドPEQのイコライジングカーブは測定結果を元にRoom EQ WizardのEQ画面で生成したものです。FIRフィルターのイコライジングカーブは専用ツールで作成したFIRフィルターをRoom EQ Wizardに読み込ませたものです。

上の3つのイコライジングカーブを比較すれば、5バンドPEQがルーム補正には力不足であることが明白です。補正精度が劣ります。

位相歪みを伴う

DAコンバーターやAD/DAコンバーターに搭載されたPEQは位相歪みを伴うIIRフィルターである。

畳み込みでルームキャリブレーションするには?

畳み込み(コンボリューション)でルームキャリブレーションするための手順は大きく2ステップです。

STEP
マイクによる測定

最初にすることはキャリブレーションの対象となる部屋(リスニングポジション)の音響特性の測定です。自分に合った服をオーダーメードするための採寸と同じです。服ならサイズの決まった既製服でも特に支障はありませんが、音響特性は部屋ごと・聴く位置ごとに大きく変化しますからオーダーメードでなければ成果を得ることは不可能です。

STEP
デジタルフィルターの設計とエクスポート

2つ目は測定データを足がかりとしたFIRフィルターによるルームイコライザーの作成です。FIRフィルターはターゲットカーブを柔軟に設定することができるため、フラットな特性に限らず任意の周波数から右下がりの特性(高音域減衰)にすることも右上がりの特性(高域上昇)にすることも更に細かいカーブを作ることも自由です。作成したFIRフィルターをファイルとして書き出すことで、roonなどに読み込ませることができます。

ルームキャリブレーションをサポートする商品・サービスの販売

ルームキャリブレーションはオーディオ機器のアップグレードを遥かにしのぐ音質向上効果を得ることができますが、すべてを自力で行うためにはいくつものハードルを乗り越えなければなりません。

畳み込みをはじめとしたルームキャリブレーションを実践するためのサポートが必要と感じたらオーディナリーサウンドを利用してください。サポートとなる商品・サービスを用意しています。

  • 音響測定のためのシステム(測定システム)は、不足しているものを追加できるように組み合わせを自由にカスタマイズできます。
  • 畳み込みに使うFIRフィルターは必ずしも自力で作成する必要はありません。測定用マイクによる測定データを提供していただきご希望のターゲットカーブをお知らせいただくとFIRフィルターをご提供するサービスをご利用できます。

\ 購入その他、気軽にお問い合わせください /

脚注

  1. 「部屋の音を良くする」とは厳密には部屋に起因する音響特性の劣化を回避することです。「オーディオ半分、部屋半分」と言われるとおりで、オーディオ機器の音質を完璧にしたとしても部屋の音質に着手しなければ音質改善の50パーセントも達成することはできません。 ↩︎
  2. ヘッドホンはスピーカーの代替手段には成り得ないばかりか難聴リスク*が高まるデメリットがあるため、スピーカーとヘッドホン(イヤホン)はTPOに合わせて上手に使い分ける必要があります。また、ヘッドホンはスピーカーの音質(主に音圧周波数特性)の優れたチェックツールとしても利用できるため、ヘッドホンで聴かない人にも一定以上の音質のヘッドホンをおすすめします。
    ※難聴リスクはヘッドホンに限らずスピーカーでも起こり得ることです。爆音再生はヘッドホンと同じで難聴リスクがあるため絶対に避けましょう。音楽を思うように聴けなくなっては元も子もありませんから。ルームキャリブレーションのメリットの1つに「小音量で高音質」があります。爆音にせずに済みます。(ルームキャリブレーションにより見通しの良い音になると、ついつい音量を上げてしまいがちになるので注意しましょう) ↩︎
目次