スピーカーで高音質に音楽を楽しむ為の音響測定術:概要と揃える物

スピーカーや部屋の音響特性を測定できることは知っていても、具体的に何を使ってどのようにすれば良いのかあまり知らないのではないでしょうか。自分で測定できるようになると問題点が具体的にわかるので、時間と費用をかけない音質向上対策に役立ちます。

音質向上対策の方法については「スピーカーリスニングの音質向上に最も効果的なたった一つの方法」をご覧ください。

室内音響測定とスピーカー測定の違い

スピーカーで聴く音楽の音質向上を目的とした測定には主に2種類あり測定方法も異なります。

1つは部屋の音響特性も含めたオーディオシステム全体の測定で、リスナーがどのような特性で聴いているのかを知るために使います。リスニングポジションにマイクを立てて部屋の反射音も含めて測定します。

もう1つはスピーカーそのもの(あるいはスピーカーを含めたオーディオシステム)の特性を知るための測定で、主に自作スピーカーを調整するために使います。この場合は、部屋の影響を極力受けないようにする必要があります。理想は無響室での測定で、通常の部屋の場合はマイクをスピーカーに近づけるなどの工夫が必要です。

一般的には市販スピーカーを使った音質向上が目的ですから、前者の方法で測定します。

測定の概要

測定の大まかな流れは次のようなものです。

  1. 測定の基準となる信号音(スイープ信号)をスピーカーから再生します。
  2. スピーカーから出てくる音を測定用マイクで拾ってPCに送り込みます。
  3. PCに送られてきた音は測定ソフトが解析してくれて、周波数特性などがグラフなどで表示されます。つまり問題点を視覚的に指摘してくれます。
測定の概念
PCの測定ソフト(スイープ信号)→DAコンバーター→アンプ&スピーカー→測定用マイク→マイクアンプ→ADコンバーター→PC測定ソフト(解析)

用意するもの

測定に使うツールは音楽再生には縁のないものばかりです。音楽再生にPCを使っている場合は測定ソフトをインストールすればそのまま利用できます。

  • PC(Win / Mac)
  • 測定ソフト
  • オーディオインターフェイス
  • 測定用マイクとマイク関連用品

PC

WindowsまたはMac ※後述のオーディオインターフェイスがサポートしていればLinuxでも構わないかもしれません(試したことはありません)

※スマホやタブレットでも測定は可能ですが、PCに比べると簡易的な位置づけとなります。

測定ソフト

各OSに対応した製品が有償・無償で提供されています。(REWなど)

音響測定ソフトREW(Room EQ Wizard)の使い方をご覧ください。

REW

オーディオインターフェイス

前述の「測定の概要」で説明したDAコンバーター、マイクアンプ、ADコンバーターは、これらの機能をすべて包含したオーディオインターフェイスを利用することで1台で済ませられるのでおすすめします。※オーディオインターフェイスについては、オーディオインターフェイスをリスニング用途におすすめする2つの理由(DAC/ADC)をご覧ください。

※上記のような比較的安価なオーディオインターフェイスでも構いません

マイクアンプを内蔵していないオーディオインターフェイスの場合は、そのオーディオインターフェイスに接続可能なマイクアンプを別途用意します。

レコードプレーヤーの音を飛躍的に音質向上してくれるオーディオインターフェイスKORG Nu Iはライン入力にアナログ出力可能なマイクアンプを接続することで測定に使うことができます。

KORG Nu Iについては、KORG Nu I、アナログ資産をDSDで残すための一押しオーディオインターフェイスをご覧ください。

既に所有しているDACにマイクアンプとADCを追加することも可能ですが、測定ソフトや補正ソフトによってはDACとADCに異なるデバイスを指定できないものもあるため確認しておく必要があります。

マイクアンプを内蔵したADCは無いことはありませんが、選択肢が極端に狭くほぼプロ用途の製品になります。

測定用マイク

測定を目的としたマイクは無指向性で、一般的な指向性を持つマイクと特性が異なります。測定用途ですからレコーディングに使われるマイクと比べて周波数特性も極めてフラットで正しい測定結果を得ることができます。

iSEMcon EMX-7150

オーディナリーサウンド一押しのドイツの測定用マイクです。iSEMmon EMX-7150については音響測定用マイクiSEMcon EMX-7150:高性能を低価格にをご覧ください。

EMX-7150

IK Multimedia MEMS Microphone

IK MultimediaのARC System 3(測定&補正ソフト)とiLoud MTMに同梱される測定用マイクです。単体でも購入可能でREWなどの他社の測定ソフトでも使用可能な測定用マイクです。

マイクスタンド

マイクスタンドは狙った位置にマイクを固定設置するために使います。※カメラ三脚とネジ変換アダプターで代用することも可能ですが、マイクスタンドは数千円で入手できるので安定設置の面からも出来れば揃えましょう。

マイクスタンドがなくても手持ちで測定できなくはありませんが、どうしても手振れが起こるのでその意味でもマイクスタンドは揃えたいところです。カメラの三脚と同じ役割です。

ケーブル

  • PCとオーディオインターフェイスを接続するケーブル(USB、Thunderbolt等)
  • マイクとオーディオインターフェイスを接続するケーブル(XLRケーブルが一般的)

マイクのつなぎ方

マイクとオーディオインターフェイスは以下のイメージで接続します。

オーディオインターフェイスのマイク入力はXLRが一般的です
写真のオーディオインターフェイスAXE I/OはXLRとTRSどちらも接続できるコンボジャックを装備

測定結果は信頼できるのか?を検証

実際に測定を始める前に、「素人の自分が測定して、ちゃんとした結果が出せるのだろうか?」と疑問に思う方もいらっしゃることでしょう。

「測定する度に結果が異なるから信頼できない、意味がない」

そのような意見も聞かれますが実際はにどうでしょうか?結論から言うと大丈夫です。測定の度に結果が異なるのは、様々な条件が一致していないかまたは測定機器等の不具合によるものと思われます。例えばスピーカーの位置やマイクの位置が変われば測定結果が異なるのは当然のことですし、測定時の音量も影響します。

比較的安価で信頼のおける測定用マイクiSEMcon EMX-7150とスピーカー(HEDD Type 20)を使って各種測定を3回ずつ行った結果が以下の各グラフです。

※3回の測定結果は重ねて1つのグラフに表示しています。一見すると1回の測定に見えるかもしれませんので、グラフをクリックして拡大表示してみてください。

※測定に使ったその他の主なツールは以下のとおりです

スピーカーの音響軸付近を10cmの距離で測定

左チャンネル 3回分
右チャンネル 3回分

スピーカーの音響軸付近を10cmの距離で測定(HEDD Lineariser適用)

左チャンネル 3回分
右チャンネル 3回分

ツイーターの中心を10cmの距離で測定

左チャンネル 3回分
右チャンネル 3回分

ツイーターの中心を10cmの距離で測定(HEDD Lineariser適用)

※HEDD Lineariserについては「HEDD Lineariserで位相やインパルス応答を向上、HEDDは更に音質アップするスピーカー」をご覧ください。

左チャンネル 3回分
右チャンネル 3回分

上記全てのグラフで共通している点は、30Hz以上においては各々3回の測定結果が見事に一致していることです。30Hz未満は3回の測定結果が異なるため3本の線が区別できますが、30Hz未満はHEDD Type 20(スピーカー)のスペック外の帯域ですから無視して構わないと判断して差し支えないでしょう。

また、スピーカーの音響軸で測定すると高域(14kHz以上)が若干落ちていますが、マイクをツイーターにフォーカスしてセットするとこの帯域の降下がなくなっている様子もはっきり示しています。

位相周波数特性の検証

先に振幅周波数特性(一般的に周波数特性と呼ばれるもの)での信頼性を紹介しましたが、今回測定しているスピーカーは極めて位相周波数特性の優れたHEDDのスピーカーですからあわせて掲載します。

※Room EQ Wizardの位相周波数特性は振幅周波数特性のように複数の測定結果を重ねてグラフ表示できないため少し比較しづらいかもしれません。

※位相周波数特性を見違えるように改善するHEDD Lineariserを適用した測定結果です。

左チャンネル

右チャンネル

位相周波数特性も振幅周波数特性と同様に30Hz以上では3回の測定結果に相違は見られません。

このように、(特殊な無響室でなくても)通常の一般の部屋で十分に信頼に値する測定が可能です。

測定と簡易的な補正の紹介

室内音響測定は思ったよりも手軽にできて、しかも信頼に値する測定結果を得られることがお分かりいただけたかと思います。

測定は今の状態を具体的に示してくれますから、測定結果に基づいて音質向上を目指せば、無駄な時間をかけずに的確な対策を施すことができます。

音質向上の方法は様々ですから、スピーカーリスニングの音質向上に最も効果的なたった一つの方法をご覧ください。何れの方法を取った場合でも、測定結果に基づく対策と測定せずに聴感に頼った対策では結果に大きな差がでます。

以下に、測定ソフトとフリーのPCソフトウェア・イコライザーを使った簡易的な測定と補正をご紹介します。更に補正した結果を再び測定してどのように補正されたかについてもご紹介します。

使用アイテム

  • 測定マイク:iSEMcon EMX-7150 ※マイクスタンドに取り付け
  • オーディオインターフェイス:IK Multimedia AXE I/O
  • 測定ソフト:Room EQ Wizard(Win版)
  • イコライザー(補正用として):IK Multimedia T-RackS Custom Shop(無償ソフトウェア)に含まれるClassic Equalizer

測定

ルームアコースティックの改善にはリスニングポジション(実際に聴いている位置)で測定する必要があります。

普段リスニングしている位置の耳の高さにマイクをセットして、Room EQ Wizardの「Start Measuring」ボタンをクリックするだけです。

※測定用マイクの種類によってマイクの向きは異なります。

スピーカーからスイープ音が再生され、正しく測定できるとRoom EQ Wizardのメイン画面にグラフが描かれます。

※左チャンネルと右チャンネルを別々に測定します。

グラフは左右両チャンネルを測定した結果です。Room EQ Wizardの「All SPL」で左右チャンネルを重ねて表示しています。

緑:左チャンネル、茶:右チャンネル

グラフからわかるように、左右チャンネル共に120Hzに最大ピークが現れています。

補正

無料で入手できるClassic Equalizerで120Hzのピークを補正します。

Classic EqualizerをJRiver Media Centerにアタッチして補正のための設定をおこないます。

JRiver Media CenterのDSPスタジオにClassic Equalizerを追加して設定する

今回は簡易的な補正として左右共通で最も影響の出ている120Hz付近を補正します。

上のClassic Equalizerの画面を見てください。

  1. まず左右共通に設定できるように「L/R」(画面左端の赤枠)が点灯していることを確認します。
  2. 「LOW MID」(画面中央の赤枠)の文字をクリックして点灯させます。
  3. 赤枠の3つのつまみから左下(●●Hz)のつまみをドラッグして”120Hz”に設定します。
  4. 赤枠の中の大きなつまみ(上部)をドラッグして”-5dB”に設定します。
  5. 赤枠の3つのつまみから右下のつまみをドラッグして”5”に設定します。
  6. 画面右上の赤いインジケーターが点灯していることを確認します。点灯していない場合は、「Bypass」をクリックして点灯させます。

※各つまみは数字の部分をクリックして数値入力することもできます。

JRiver Media CenterのDSPスタジオでClassic Equalizer(リストで”TRS Classic EQ”の箇所)にチェックを入れて有効にすると補正値が適用されます。

【Tips】
・補正のためのイコライジングの基本はピークを抑え込むためのカット操作です。※ディップ(谷)をブーストしてもあまり好結果にはつながらないばかりか、0クリップの原因にもなるので注意が必要です。
・グラフィックイコライザー(略してグライコ)のほうが直感的に操作できますが、ルーム補正には目的の周波数帯に的確にたどり着けるパラメトリックイコライザー(略してパライコ)が適しています。
・パライコの使いこなしはQの設定につきます。Qはイコライジングの帯域幅(適用範囲)のことで、値が小さいと広い範囲になり大きいと狭い範囲(ピンポイント)になります。※ここで取り上げているClassic EqualizerのLOW MIDとHI MIDの各右下にある小さなノブがQです。
・Qの値は必ずしも絶対値ではなく、イコライザーによってまちまちです。

補正結果を確認

Classic Equalizerで補正するとどのような結果になるかをグラフで視覚的に確認するために、Classic Equalizerを適用した状態で再度測定してみます。操作手順にかわりはありません。

下がClassic Equalizer適用前後の周波数特性を重ねて表示したグラフです。

左右チャンネル共にイコライザー補正によりルームアコースティックの影響による最大ピークを改善することに成功しています。

緑:補正前、青:補正後
茶:補正前、青:補正後

補正後の左右チャンネルを重ねてみました。

補正後、青:左チャンネル、ピンク:右チャンネル

位相周波数特性についても掲載しておきます。

イコライザー適用後の位相周波数特性(左チャンネル)
イコライザー適用後の位相周波数特性(右チャンネル)

Classic Equalizerを適用しても位相を乱していません。

「イコライザーは位相を乱すから使わない」との意見がありますが、これなら問題ありませんね。

簡易補正のまとめ

無料の測定ソフトRoom EQ WizardとソフトウェアのイコライザーClassic Equalizerを使った簡易補正だけでもルームアコースティック対策として大きな改善が見られます。

Classic Equalizerのパラメトリックイコライザーは2バンドですから補正は2箇所に限られます。より良い結果を得るには少々物足りないのでより柔軟に補正できるイコライザー・プラグインを使うと良いでしょう。Track-SやUAD-2のプラグインは実に様々な種類のイコライザーが用意されています。

関連記事:PCとオーディオインターフェイスが叶えるビンテージ・プレミアム・サウンド

オーディオインターフェイスやマイクは音楽リスニングには無縁のもののように思われがちですが、実は高音質再生(本来の音の再現)の最大の難関であるルームアコースティック対策に役立つ強力なアイテムですから是非トライしてみてください。

セット商品

音楽リスナーの方々は通常はマイク、マイクアンプ、マイクスタンドなどは持っていませんので、測定ソフト(無償でダウンロード可)を除くセットもご用意しています。

部屋は音質を左右する最大のオーディオ装置 大衆車から高級車に買い換えても、デコボコな悪路での乗り心地が改善されることはありません。 ...

もっと手軽に測定&補正したい場合は、IK MultimediaのARC Systemをおすすめします。ARC SystemはWin/Macのソフトウェアと測定マイクが1パッケージになったルーム補正の入門にも適した製品です。

音響測定は”案ずるよりも産むが易し”です。また”習うより慣れろ”です。

とは言っても最初はわからないことだらけかもしれませんから、お気軽にお問い合わせください。

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