オーディオのライトサイド

音響測定:スピーカーの音質を正常化(清浄化)する為のはじめの一歩

音楽をスピーカーで聴く時の音質の良し悪しは部屋で決まります。極上のオーディオシステムを揃えても室内音響特性が望ましくない状態であればオーディオシステムの音質は半減され宝の持ち腐れになってしまいます。

低音がボワつくなど音質の劣化が顕在化しているにせよ、音質的に気になる点がないにせよ、ルームアコースティックを測定することをおすすめします。

音に不満がある場合は測定することで何を解決したら良いのかを具体的に知ることができます。不満を感じていなくてもより良い音にするための手掛かりが得られます。

音響測定はオーディオの健康診断

人はたとえ健康な状態であっても定期的に健康診断することで症状に現れない体の異変を知ることができます。オーディオも全く同じことで、良い音で再生出来ていると思っていても測定してみると改善の余地がまだまだ潜んでいることに気づかされます。機器をグレードアップする前に測定による対策を施せば、自己診断による誤りを回避して無駄な出費を抑えることができます。

目次

音響測定のメリットとは?

低音がボワつくなど音質に不満が有る場合は、わざわざ測定しなくても低音に問題があるであろうことは既にわかっています。ヘッドホンとスピーカーで聴き比べてみれば問題があることの確度は更に高まります。しかし、低音の何ヘルツあたりにどの程度(何デシベル)のピーク(あるいはディップ)があるのか言い当てることの出来る人は稀です。

測定することで、漠然としていた問題点は具体的な問題点へと一歩前進します。問題点を具体化することで的を得た解決に取り組むことができ、無駄な回り道(お金と時間の浪費)をせずに済みます。測定せずに当て推量で対策に取り組むと試行錯誤の繰り返しになり、なかなかゴールに辿り着けません。場合によっては、見当違いの対策をやってしまうことさえ有得ます。

スピーカーケーブルやオーディオアクセサリーでルームアコースティックの問題を解決することはできません。

スピーカーの音質を正常化(清浄化)するとは

スピーカーは再生している部屋の影響を多大に受けるため、対策を施さなければスピーカー本来の性能を発揮する事はできず劣化した音質になります。スピーカーの音質を正常化(清浄化)するとは、部屋の悪影響を取り除き(清浄化)、スピーカー本来の性能を発揮させる(正常化)ことです。

水道水を浄水器でろ過してピュアウォーターにすることと同じです。

音響測定システムは個人でも入手可能

測定することのメリットは理解したにしても、測定するためには何が必要でどの程度の費用がかかるのか見当もつかないかもしれません。

費用面では昔ならいざ知らず、今日は個人レベルで音響測定システムをリーズナブル(数万円から)に入手できる時代になっています。

測定の概念

測定に必要なものの話をする前提として、ルームアコースティックの測定の概念を説明します。スピーカーの音質を正常化(清浄化)するために最も基本かつ重要な測定の対象は伝送周波数特性です。

伝送周波数特性とは

聴き慣れない難しそうな用語ですが、要はリスナーに聴こえている音の周波数特性のことです。たとえオーディオシステムが完璧にフラットに出力していたとしても、ルームアコースティックの影響で聴こえている音はフラットではなく原音と大きく剥離してしまいます。電気信号の段階でビットパーフェクトを達成しても、ルームアコースティック次第で実際に聴いている音は大幅に劣化しているということです。

この伝送周波数特性を測定するには、測定の基準となるテスト信号をスピーカーから出力して測定用マイクで収音します。マイクに入力されたテスト信号は周波数特性を解析するためのシステムに送られて、周波数特性を数値やグラフで得ることができます。その結果、問題点を具体的・視覚的に把握することができます。

測定の概要
室内音響測定の概要
100Hz~200Hz周辺が大きなピークになっている等がわかる
  1. キャリブレーションのためのテスト信号(スイープ信号等)をスピーカーから出力
  2. スピーカーから出力されるテスト信号を測定用マイクで拾い、解析システムに出力
  3. 解析システムはマイクからPCに送られてきた音を解析して周波数特性グラフなどを表示

これらの一連のシステムは様々な形態で提供されていますが、個人レベルでリーズナブルに入手する方法は測定用マイクとPCのソフトウェアを基軸としたシステムです。この手のシステムはパッケージにはなっていないため、別々に入手してシステムを自前で構築する必要があります。※オーディナリーサウンドでセットとして入手できます。

PCを使った音響測定システム

以降は、測定用マイクとPCのソフトウェアを基軸とした音響測定システムの説明です。音響測定システムの主な構成要素はPCの音響測定アプリ(解析システム)・測定用マイク・オーディオインターフェイス(PCとマイクの接続に必要)で、これを補助する構成要素に接続ケーブル・マイクスタンドがあります。

音響測定システムの構成要素

  • PC:Win / Mac / (Linux) ※特にハイスペックである必要はありません
  • 音響測定アプリ:Room EQ Wizard
  • オーディオインターフェイス
  • 測定用マイク

オーディオに不可欠な測定アイテムは、どれをとっても通常のオーディオショップでは実は入手できないということです。

あわせて読みたい

音響測定アプリ・測定用マイク・オーディオインターフェイスと言われてもピンと来ない方は次の記事をご覧ください。

また音響測定システムは、測定対象となるオーディオシステムの構成要素に応じた接続方法を取るため、どんな接続方法を取れば良いのか予め確認しておきます。

USBマイクのメリット・デメリット

ここで紹介しているマイク以外にもUSBケーブルでPCに接続するタイプの測定用マイクは、オーディオインターフェイスやマイクケーブルが不要です。メリットとデメリットを把握したうえでどちらにするか決めると良いでしょう。

メリット:ケーブル一本でPCに接続できる。

デメリット:USBケーブルの長さの制約(現実的には3m以内)がある。

PCオーディオの場合

測定対象がPCオーディオを含むオーディオシステムの場合は、そのPCに音響測定アプリをインストールして測定することができます。テスト信号はPCに接続しているDAC経由でスピーカーから出力します。測定用マイクをオーディオインターフェイスに接続しオーディオインターフェイスをPCに接続することで、マイクで収音したテスト信号を音響測定アプリに入力します。

音響測定:PCオーディオの場合

DTMの場合

DTM等で既にオーディオインターフェイスを使用している場合は、前述のPCオーディオの場合とほぼ同様です。違いはテスト信号がオーディオインターフェイス内部のDACを経由してスピーカー出力される点です。

音響測定に利用するオーディオインターフェイスは1チャンネル以上のファントム電源対応マイクアンプが装備されている必要があります。

ネットワークオーディオの場合

プレーヤーとしてPCを使わないネットワークオーディオ等のファイル再生システムの場合は、オーディオシステムとオフラインの状態で測定システムを持たせることで測定することができます。PCオーディオの場合との違いは、テスト信号をWave等のファイルとしてネットワークオーディオプレーヤー・その他で再生する点だけです。

音響測定:ネットワークオーディオの場合

PCオーディオやDTMの場合は、テスト信号は音響測定アプリがジェネレートしてリアルタイム出力します。

CDプレーヤーの場合

ファイル再生に対応していないCDプレーヤーの場合は、テスト信号のファイルを元にCDを作成することで測定することができます。テスト信号をCDで再生すること以外はネットワークオーディオの場合と同様です。

レコードプレーヤーの場合

オーディオシステムがレコードプレーヤー等アナログ音源再生に限られる場合は、測定時に測定システムをオーディオシステムに接続することで測定することができます。オーディオシステムと測定システムの関係は、PCオーディオの場合を参照してください。※PCから出力するテスト信号をオーディオシステムに入力します。

音響測定セット

どれをどこで買えばよいのか難しくて面倒なのでセットにしました

音響測定はPCの音響測定アプリを使うことで個人レベルでもリーズナブルに入手できるようにはなりましたが、測定に必要なアイテム一式はパッケージになっていません。オーディナリーサウンドではPCと音響測定アプリを除く一式をセットとして提供していますのでご利用ください。

音響測定セット Basic

セットに含まれるマイクスタンドは1本です。

音響測定セットの内容はカスタマイズ可能です。上記の問い合わせボタンからお問い合わせください。

  • 測定用マイクの変更:Peavey PVR2
  • オーディオインターフェイスの変更(またはセットから外す):オーディオインターフェイスおすすめ43選
  • マイクスタンドの変更:ブーム/ショートブーム/ストレート(またはセットから外す)
  • マイクケーブル:ケーブル長の変更(またはセットから外す)
測定にART USB MIXを使う場合の注意事項

ART USB MIXを使って測定する場合は、テスト信号はUSB MIX以外のUSB DAC等デバイスから出力する必要があります。これは、USB MIXがダイレクトモニターをオフにする機能を持たないための制限です。※マイクで拾った信号をPCへ出力すると、同時にUSB MIXのラインアウトからも出力される仕様のためループによるフィードバックが起こります。

オーディオインターフェイスのみでテスト信号の出力とマイク入力を行いたい場合は、別の機種をお選びください。どの機種を選べば良いかわからない場合は、上記の問い合わせボタンからお問い合わせください。

関連情報

PCによる音響測定はリーズナブルでおすすめの測定方法ですが、簡易的でももっと気軽に測定する方法はスマホによる測定です。スマホとアプリだけで測定することができます。

測定に基づいたルームアコースティックの自動キャリブレーションはARC System 3をお使いください。測定用マイクが同梱された音響測定&補正アプリです。

室内音響測定とスピーカー測定の違い

スピーカーで聴く音楽の音質向上を目的とした測定は主に2種類あり測定方法も異なります。

1つは部屋の音響特性を含めたオーディオシステム全体の測定で、リスナーがどのような特性で聴いているのか(伝送周波数特性)を知るために利用します。リスニングポジションにマイクを立てて部屋の反射音も含めて測定します。

もう1つは部屋の音響特性を含まずスピーカーそのもの(あるいはスピーカーを含めたオーディオシステム)の特性を知るための測定で、主に自作スピーカーのチューニングに利用します。この場合は、部屋の影響を避けるために無響室で測定することが理想ですが、通常の部屋で測定する場合はマイクをスピーカーに近づけるなどの工夫で部屋の影響を極力受けないようにする必要があります。

一般的には市販スピーカーを使った音質向上が目的ですから、前者の部屋を含めた音響特性を測定する方法を用います。市販スピーカーの場合でも定期的にスピーカーを測定することで劣化の度合いを把握することに役立ちます。ツイーターから音が出ていないなど気づきやすくなります。

測定セットから広がる新たなPCオーディオの世界

セットに含まれるアイテムは上記のセットに限った話ではありません。

測定用マイクの選択肢は限られますが、オーディオインターフェイスの種類は豊富でその多くは測定用マイクがつながるマイクアンプを内蔵しているので用途やシステムのグレードにあったものをチョイスできます。

例えばオーディオインターフェイスのADC(アナログデジタルコンバーター)機能はマイク測定以外にもレコードやテープのデジタル化にも使えるので、2チャンネル以上の入力を持つオーディオインターフェイスを使うことで用途が広がります。MDプレーヤーとデジタル入力対応のオーディオインターフェイスをデジタル接続して音楽ファイルに変換することも可能です。

自室の再生音を2本のマイクでステレオ録音してネットで聴いてもらう(空気録音)のも良いですね。流石にスマホ内蔵マイクでは高音質録音は期待できませんからせっかくアップロードしてもマイナスイメージにしかなりません。

ハイグレードなオーディオインターフェイスはホームオーディオ用のハイエンドDACに勝るとも劣らないほどの音質ですから、いっそのことDACをオーディオインターフェイスに置き換えてシステムをシンプルに使いやすくすることもできます。ほとんどのオーディオインターフェイスは出力ボリュームを持っているので、デジタル/アナログの入力数の豊富なオーディオインターフェースを使えばプリアンプ(コントロールアンプ)は不要になります。

オーディオインターフェイスやADC製品の中にはモダンなデザインのフォノイコライザーを持った機種まであります。レコードプレーヤーに直結して高音質フォノイコライザーとしてレコード再生することも、レコードプレーヤーからダイレクトに高音質デジタル録音することさえ可能です。

この記事ではルームアコースティックの測定についての話をしていますが、その先には測定結果に基づくルームアコースティックの補正改善があります。補正するための手軽で堅実な手段としてイコライザーを使う場合は、高性能なイコライザー機能を持ったオーディオインターフェイスをはじめから選択するのもよいでしょう。イコライザー機能を持たないオーディオインターフェイスの場合でも、PCソフトウェアによるイコライザーで処理することができます。

ハイエンドオーディオの世界には種類は少ないながらも一台でルームアコースティックの測定から補正までをこなすルームイコライザーが存在します。ハイエンドオーディオのルームイコライザーを使うと、大衆車でスポーツカーを追い抜くためには高額な高速料金(約100万円)を払わなければなりません。

このルームイコライザーの代わりにPCを使うことによって、同等以上の成果をあげることができます。そればかりか部屋の変化にフレキシブルに対応できる先進性を備えたシステムが僅かなコストで手に入ります。

その他にもきりがないほどのシステムアップが考えられますが、オーディオインターフェイスは実にモダンなオーディオのコントロールセンターの役割を果たすことがわかります。

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