PCやスマホに内蔵されたスピーカー、Bluetoothスピーカー等しか使った経験がなければ本格的なスピーカー導入は少し敷居が高いかもしれません。スピーカーには様々な種類がありスピーカーによって周辺機器も異なってくるため、スピーカーを選ぶ時の正しい情報として役立ててください。
モノラルスピーカーとステレオスピーカー
音楽ソースの多くは今も昔も変わらずステレオ音源が多数ですが、スピーカーによってそのままステレオ再生されるかモノラルにまとめられて再生するかが異なります。
モノラルスピーカー
小型Bluetoothスピーカーの多くはモノラルスピーカーです。入力したステレオ音源はスピーカー内部で左チャンネルと右チャンネルがミックスされモノラル(1チャンネル)再生されます。
ステレオスピーカー
ステレオ音源をステレオのままで再生するには左右2チャンネルぶんのスピーカーを使います。2チャンネルぶんのスピーカーが1つの筐体に収まっているスピーカーと、2台の筐体を使って左右チャンネル用に分担させるスピーカーがあります。
マルチチャンネルスピーカー
Blu-ray等の映像メディアの中には、音声が5.1チャンネル等の多チャンネルになっているコンテンツも多数存在します。これに対応するスピーカーがマルチチャンネルスピーカーです。
5.1チャンネルの場合は、レフト/センター/ライト/リアレフト/リアライト/サブウーファーの6本のスピーカーが使われます。
画像左から順に
- amphion Argon3LS(フロント左右スピーカーとして)
- amphion Argon5C(センタースピーカーとして)
- amphion Argon1(リア左右スピーカーとして)
- DYNAUDIO Sub 3(サブウーファー)
スピーカーの種類
スピーカーは次の3種類に分類することができます。
- パッシブスピーカー
- アクティブスピーカー
- 簡易アクティブスピーカー
パッシブスピーカー
スピーカーと言えば最初に連想するのがパッシブスピーカーです。パッシブ(受動的)と言う名前のとおりに電源は不要で、スピーカーを駆動するためのアンプ(パワーアンプ)の出力信号を受けて動作します。
アクティブスピーカー
スピーカーを駆動するためのアンプ(パワーアンプ)を内蔵しているスピーカーがアクティブスピーカーです。
パワーアンプを内蔵したスピーカーが音楽再生用のアクティブスピーカーとは限らない
画像のスピーカーはアクティブスピーカーではなくギターにつなぐためのコンボタイプのギターアンプです。
アンプとスピーカーが1つの筐体に収まっているためかアクティブスピーカーと勘違いされることがありますが、操作パネルを見ると大抵は見分けがつきます。
このギターアンプの場合は、フロントパネルにOVERDRIVEと書かれたノブがあることからもギターアンプであるとわかります。左側のジャックにギターケーブルを接続してOverdriveのGainを右に回すとギター固有の歪んだ音になります。
画像出典:MG15 – marshall.com
Marshallにはギターアンプもアクティブスピーカーもあるので、ちょっと見ただけでは区別がつきません。間違わないように気を付けましょう。左がギターアンプ、右がアクティブスピーカー(Bluetoothスピーカー)です。
簡易アクティブスピーカー
一般的にアクティブスピーカーと紹介されているスピーカーの中にはパッシブスピーカーとアクティブスピーカーの2台1組がセットになったスピーカーがあります。
スピーカーケーブルで左右2台のスピーカーをつなぐ
アクティブスピーカーはアンプを内蔵しているのでRCAケーブル等でラインレベルの音声信号を入力します。簡易アクティブスピーカーのペアのうち1台はスピーカーケーブルを使ってもう片方のスピーカーに内蔵されたアンプで増幅された信号を入力します。
スピーカーケーブルで左右2台のスピーカーをつなぐのは簡易アクティブスピーカーです。
FOSTEX PM0.3Hのマニュアルではそれぞれをアクティブスピーカーとパッシブスピーカーと明記しています。ZEN DACに接続するアクティブスピーカーとしても紹介されているJBL One Series 104のマニュアルではアクティブスピーカーをマスタースピーカー、パッシブスピーカーをエクステンションスピーカーと呼び、両者をスピーカーケーブルで接続するように説明されています。
スピーカーケーブルで左右のスピーカーをつなぐのは簡易アクティブスピーカー
- 左右のスピーカーをつなぐのはスピーカーケーブルとは限りません。ラインレベルのアナログ信号やデジタル信号で左右2台を接続するタイプのアクティブスピーカーもあります。HEDD AudioのアクティブスピーカーやADAM Audio Sシリーズのアクティブスピーカーは、デジタル入力の場合に左右スピーカーをデジタルケーブルで接続します。
- 電源コネクターの有無も確実な判断基準にはなりません。iLoud Micro Monitor(IK Multimedia)はアクティブスピーカーです。簡易アクティブスピーカーではありません。
ブックシェルフ(デスクトップ)とトールボーイ(フロアスタンディング)
スピーカーは大きさやどのような設置方法を取るかによってタイプが分かれ、主にブックシェルフ(上置き)とフロアスタンディング(床置き)のタイプがあります。
ブックシェルフ(デスクトップ)
ブックシェルフスピーカーは名前のとおり本棚にも置けるような小型のスピーカーです。今でもブックシェルフという呼び方はありますが本棚にスピーカーを置くよりもスピーカースタンド上の設置が音質面でも推奨されます。またデスクトップオーディオが普及している事からデスクトップスピーカーと呼ばれることもあります。
トールボーイ(フロアスタンディング)
トラディショナルな本格派スピーカーは床に設置する大型のフロアスタンディングスピーカーです。その後、フロアスタンディングの設置面積を小さくした見た目も縦長のトールボーイスピーカーが登場しました。
フルレンジとマルチウェイ:スピーカーユニット
スピーカーは電気信号を空気振動に変換する装置でその役目を果たす部分をスピーカーユニットと呼びます。
スピーカーユニットが単数であるか複数であるかによってフルレンジスピーカーとマルチウェイスピーカーに分類されます。
- フルレンジスピーカー
- マルチウェイスピーカー
フルレンジスピーカー
スピーカーユニットが1つのスピーカーがフルレンジスピーカーです。1つのスピーカーユニットで低音域から高音域までの全ての帯域を再生します。
マルチウェイスピーカー
スピーカーユニットが2つ以上のスピーカーがマルチウェイスピーカーです。低音域を再生するスピーカーユニット(ウーファー)と高音域を再生するスピーカーユニット(ツイーター)を持つスピーカーが2ウェイスピーカーで、低音域と中音域と高音域をそれぞれ再生するスピーカーユニット(ウーファー、ミッドレンジ、ツイーター)を持つスピーカーが3ウェイスピーカーです。更に4ウェイ以上のスピーカーもあります。
- 2ウェイスピーカー
- 3ウェイスピーカー
- その他(4ウェイ以上のスピーカー)
マルチウェイのスピーカーユニット
マルチウェイスピーカーはスピーカーユニットが複数取り付けられていますが、〇ウェイとスピーカーユニット数が一致するとは限りません。
次の画像は左(amphion Argon3LS)が2つのスピーカーユニット、右(amphion Argon7LS)が3つのスピーカーユニットのどちらも2ウェイスピーカーです。Argon7LSは2つのウーファーがツイーターを上下にサンドイッチするレイアウトによる仮想同軸で音像定位を向上しています。
また、一見すると1つのスピーカーユニットでフルレンジのようなマルチウェイスピーカーも存在します。低域用ユニットの中心軸に高域用ユニットが取り付けられた同軸スピーカー(コアキシャルスピーカー)です。
次の画像のスピーカーは2台1組でステレオ再生するタイプのスピーカーでしょうか?それとも1台でステレオ再生するスピーカーでしょうか?
正解は2台1組でステレオ再生するタイプのスピーカーです。
左右対称にスピーカーユニットが取り付けられているためか1台でステレオ再生できると勘違いされることがありますが、スピーカーユニットを理解していれば左右はウーファーで中央にミッドレンジとツイーターが取り付けられているスピーカーであることが判断できます。
クロスオーバーネットワーク
マルチウェイスピーカーは入力音声信号を周波数帯域で分割してスピーカーユニットに出力するための回路(クロスオーバーネットワーク)が入っています。2ウェイスピーカーならクロスオーバー周波数を分岐点として、分岐点より低い周波数帯域をウーファーへ、分岐点より高い周波数帯域をツイーターへ出力します。3ウェイスピーカーの場合はクロスオーバー周波数が2つありウーファー、ミッドレンジ、ツイーターに各周波数帯域を出力します。
クロスオーバーネットワーク回路にはパッシブスピーカーに内蔵されているパッシブクロスオーバーネットワークとアクティブスピーカーに内蔵されているアクティブクロスオーバーネットワークがあります。
次の画像はアクティブクロスオーバーネットワークによる3ウェイ4スピーカーユニットのアクティブスピーカー HEDD TYPE 30 Mk2です。
前述の簡易アクティブスピーカーはパッシブクロスオーバーネットワークが使われています。
フルレンジ/マルチウェイのメリットとデメリット
- フルレンジのメリットは、スピーカーユニットが1つであるため音像がブレにくいことです。デメリットは広い音域を再生し辛いことです。
- マルチウェイのメリットとデメリットはフルレンジの逆です。複数のスピーカーユニットは取り付け位置が離れているため音像がブレやすくなります。また、複数のスピーカーユニットが得意な音域を役割分担するので広い音域を再生しやすくなります。
- 同軸スピーカーや仮想同軸スピーカーは、マルチウェイでありながらフルレンジと同様の音像定位が得られるスピーカーです。
バスレフ、密閉、パッシブラジエーター:エンクロージャー
スピーカーユニットが取り付けられているスピーカー筐体のことをエンクロージャーと呼びます。エンクロージャー内部は空気層ですがエンクロージャー内部と外部が遮断されているものを密閉型、エンクロージャーにポートがあり内部と外部の空気が通じているものをバスレフ型、スピーカーユニットとは別のユニット(アンプと通電していないもの)が取り付けられているパッシブラジエーター型の3種類が今日のスピーカーの主流です。
- バスレフ
- 密閉
- パッシブラジエーター
バスレフ
バスレフ型スピーカーはエンクロージャーにバスレフポートがある点が外観的な特徴です。バスレフポートからも低音域が放出されるため、低音不足の解消が望まれる場合はバスレフ型が一般的に有利とされます。スピーカーによってバスレフポートはフロントやリア、その他の位置にあるため、正面から見ただけではバスレフであるかどうかは判断できません。
次の画像で左側のスピーカー(Wharfedale Pro Diamond studio 5-BT)は2つのスピーカーユニットの下部に丸い2つのバスレフポートを持っています。中央のスピーカー(ADAM T7V)はフロントではなくリアに1つのバスレフポートを持っています(画像右側)。
密閉
密閉型スピーカーはその名のとおりにエンクロージャーにポートはなく密閉されています。歯切れの良い低音が望まれる場合は一般的に密閉型が有利とされます。
パッシブラジエーター
パッシブラジエーター型スピーカーはバスレフ型の延長線上にあるスピーカーです。
次の画像のスピーカー(amphion Argon3S)はリア下部にパッシブラジエーターが取り付けられています。
スピーカーの主な構成要素はスピーカーユニットとエンクロージャーで、スピーカーユニットが複数のマルチウェイスピーカーの場合は周波数帯域を分割するクロスオーバーネットワークが構成要素に追加されます。スピーカーシステムとはこれらのスピーカーの構成要素がすべて組み込まれ配線されたパッケージを指し、通常市販されているスピーカーはスピーカーシステムです。
エンクロージャーの材質
スピーカーのエンクロージャーで多く使われているのは木材です。木材の他にも金属(アルミニウム)や合成樹脂など様々な材質が使われています。
インテリジェントなスピーカー
IK MultimediaやADAM Audioのアクティブスピーカーはルームアコースティックにあわせて最適化する機能を搭載したモニタースピーカーです。
HEDD Audioのアクティブスピーカーは位相周波数特性の改善やバスレフ/密閉両対応の画期的なモニタースピーカーです。
まとめ
以上のようにスピーカーは様々な角度から分類することができます。
- モノラルスピーカー/ステレオスピーカー
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モノラルスピーカーは音源の種類に関係なくモノラルで再生されます。ステレオスピーカーは音源の種類に従って再生されます。
モノラルスピーカー ステレオスピーカー モノラル音源 モノラル再生 モノラル再生 ステレオ音源 モノラル再生 ステレオ再生 - パッシブスピーカー/アクティブスピーカー/簡易アクティブスピーカー
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スピーカーにはスピーカーを駆動するためのアンプ(パワーアンプ)につないで使うパッシブスピーカー、パワーアンプを内蔵しているため外付けのパワーアンプにつなぐ必要のないアクティブスピーカーがあります。簡易アクティブスピーカーはパッシブスピーカーとアクティブスピーカーがセットになった商品でPCスピーカーの多くは簡易アクティブスピーカーです。
- ブックシェルフスピーカー/トールボーイスピーカー
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スピーカーはサイズや設置方法の違いによりブックシェルフスピーカーとトールボーイスピーカーに大別することができます。ブックシェルフスピーカーは本棚に置くよりもスピーカースタンド上に設置することが音質的に有利です。デスクトップオーディオ等の場合は小型のブックシェルフスピーカーを使います。
- フルレンジスピーカー/マルチウェイスピーカー
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フルレンジスピーカーはスピーカーユニット1つで全周波数帯域を再生します。マルチウェイスピーカーは周波数帯域を2つ以上に分割して各帯域に割り当てたスピーカーユニットで再生します。
- バスレフ/密閉/パッシブラジエーター
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スピーカーユニットが取り付けられているエンクロージャーの主な種類にはバスレフ/密閉/パッシブラジエーターがあり主に低音の特性に影響します。
- エンクロージャーの材質
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エンクロージャー(スピーカーキャビネット)の材質は主に木・アルミニウム・合成樹脂等が使われています。
- インテリジェントスピーカー
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従来のスピーカーでは自己制御できなかった位相周波数特性の補正やルームアコースティックに応じて最適化する機能を持った最新鋭のインテリジェントなスピーカーが存在します。
スピーカーを選ぶ時のポイント
スピーカーを選ぶ時には上記のまとめから選別していけばよいでしょう。後は見た目や価格などから絞り込んでいきます。
スピーカーの音質はスピーカー選びで外せない重要な要素なのですが、スピーカーで音楽再生する際の音質はスピーカーを含むオーディオ機器の音質よりも聴く部屋の音響特性(ルームアコースティック)の方が遥かに影響力が大きいため、この記事では割愛します。ルームアコースティックの最適化についてはルームチューニングをご覧ください。
また、スピーカー選びにネット情報を参考にすることも多いと思いますが、パッシブスピーカーにするかアクティブスピーカーにするか迷った時の判断材料として相応しくない情報も多いので以下を参考にしてください。
パッシブスピーカーとアクティブスピーカーの解説記事の多くを鵜呑みにしてはいけない件
パッシブスピーカーとアクティブスピーカーを比較してメリット/デメリットを書いている記事は沢山あり、大抵は次のように解説されています。
- アクティブスピーカーはアンプを内蔵しているので省スペースだが、音質が悪く低出力。
- パッシブスピーカーは別途アンプが必要で省スペースではないが、高音質で大出力でなおかつ好みのサウンドが楽しめる。
”アクティブスピーカーは低音質で低出力”、”パッシブスピーカーが高音質で大出力”は明らかな認識不足によるものです。
パッシブスピーカーはアンプを自由に組み合わせることができるため好みに合った音質に仕立てることができると言った説明にも無理があります。仮に理屈上そうであったとしても現実的には理想の音質に辿り着くまでに膨大な費用と時間を費やしてしまうことでしょう。オーディオ機器を取っ替え引っ替えすることに楽しみを覚えるのならそれも構いませんが、通常はその費用と時間を音楽を聴く時間に割り当てた方が遥かに有意義です。
また、先に説明したとおり音質に影響する要素はルームアコースティックのほうが遥かに大きいため、極上サウンドはオーディオ機器だけでは手に入らないことも忘れてはいけません。
要は、パッシブスピーカーでもアクティブスピーカーでも良いものは良い(高音質)ですから、パッシブ/アクティブの方式や論評に左右されることなく自分自身で判断してスピーカーを選ぶことが大切です。
音楽鑑賞の対象となる音源はレコーディングスタジオでマスタリングされて消費者に配布される記録媒体です。
マスタリングを含むレコーディングプロセスで使われるスピーカーをモニタースピーカーと呼び、現在はモニタースピーカーの多くがアクティブスピーカーです。
以上の説明だけでもアクティブスピーカーが低音質でも低出力でもないことは容易に想像できます。昔ならばともかく今日はこのようなアクティブスピーカーを個人で容易に入手することができます。(家電量販店やオーディオ専門店で取り扱っているショップは稀な存在です)
ADAM S2V | 300 W(ウーファー)、50W(ツイーター) Max. SPL (ペア@1m):≥120 dB |
HEDD TYPE 20 MK2 | 3×300 W ICEpower 最大 ペアあたりのSPL(音圧レベル):120 dB SPL |
PSI Audio A25-M | 330 + 130 + 55W Peak Max SPL@1m:124dB |
”アクティブスピーカーは低音質で低出力”と説明されている記事に取り上げられているアクティブスピーカーの多くは簡易アクティブスピーカーで、その中でもエントリークラスの低価格なPCスピーカーです。このようなスピーカーが低音質で低出力であっても仕方のない事です。
Next Step
スピーカーの種類や選び方がわかったら次にスピーカーとアンプの関係について学びましょう。スピーカーの種類によってアンプの使い方も異なるので大切なポイントです。