スピーカーで音楽を高音質に聴くために避けて通れないのがリスニングルームの音響特性の測定です。部屋の音響特性を測るには、スピーカーから出力したキャリブレーション信号をマイクで収録する必要があるので専用のマイク(測定用マイク)を使います。
マイクで収録したキャリブレーション信号は音響測定ソフトで解析されて周波数特性を含む様々な特性をグラフィカルに示してくれます。測定の概要は「スピーカーで高音質に音楽を楽しむ為の音響測定術:概要と揃えるもの」をご覧ください。
測定用マイクに代用品はない
ライブやレコーディングに使う一般的なマイクと測定用マイクはそれぞれの目的に応じた特性を持っているため、一般的なマイクを測定用のマイクとして使っても測定する意味はありません。一般的なマイクで測定した結果を元に補正すると、場合によっては逆効果になることもあるので測定用マイクを使いましょう。
測定用マイクの2つの特色
それでは測定用マイクは一般的なマイクとどのような違いがあるのでしょうか。主な違いは無指向性であることと、フラットな周波数特性です。具体的には以下を読んでください。
無指向性
マイクの指向性は大きく2つに分けられます。指向性マイクと無指向性マイクです。
指向性(カーディオイド)マイクは、マイク正面の狭い範囲の音を拾います。カラオケなどのマイクは指向性マイクです。
無指向性(オムニ)マイクは、広い範囲の音を拾います。測定用マイクは無指向性マイクです。なぜなら、スピーカーの音と部屋で反射した音を均等に拾わなければ音質向上を目的とした測定として無意味だからです。
フラットな周波数特性
ご存知ないかもしれませんが、マイクの周波数特性は他のオーディオ機器に比べてそれほどフラットではありません。レコーディングで定番の高価なコンデンサーマイクでも周波数特性からわかるように意外と凸凹です(悪いという意味ではなく各々のマイクのキャラクターとして使い分けられます)。
個人で入手可能になった測定用マイク
昔は、自宅で音響特性を測定して音質向上に役立てるなど夢のような話でした。今ではパソコンの普及と高性能化、安価な測定用マイクや周辺機器の登場により、高価なオーディオケーブルやアクセサリー類よりも低予算で遥かに音質向上の成果を出せる測定ツールを手に入れることができます。
測定用マイクは以前なら業務用途の数十万円以上のものばかりでしたが、今や数千円から数万円で実用上十分な性能を持った測定用マイクが出揃っています。その中でどのマイクを選ぶかは使っているスピーカーのグレード次第です。例えば1万円のスピーカーを使っているなら5万円のマイクを買うより1万円のマイクを買って残りの4万円でスピーカーをグレードアップするほうが遥かに費用対効果が高いと言えます。
勿論、5万円のマイクは1万円のマイクよりも信頼性(測定性能)が高いので予算に余裕がある場合は5万円のマイクを買って損はありません。湿気に注意して保管すればマイクは末永く利用できます。
隣国生産の安価(数千円)な測定用マイクもありますが、他のオーディオ機器に比べてマイクは性能の個体差が出やすいため信頼性の高いマイクを使うことをおすすめします。
測定用マイクのつなぎ方
測定用マイクはオーディオインターフェイスとXLRケーブル(マイクケーブル)で接続します。マイクで拾った音(アナログ)をオーディオインターフェイスでデジタル変換してパソコンに送り出します。
部屋の音響特性を測定する場合はマイクをリスニングポジションに設置するので、余裕を持たせた長さのXLRケーブルを選びましょう。
マイクセッティング
ルームアコースティックの最適化のために測定する場合は、リスニングポジションにマイクを設置します。
マイクはマイクスタンドに取り付けることで高さや向きを調整でき、しかも安定したマイクの設置ができるので、マイクスタンドの使用をおすすめします。カメラ三脚で代用しても構いませんがスタンドの設置面積が大きくなる傾向にあります。
おすすめ測定用マイク5選
Peavey – PVR2
PVR2コンデンサーマイクは、スピーカーの測定用、音響分析等として最適な20~20000Hzまでのフラットレスポンス、無指向性、132dBの耐入力の優れた特性を兼ね備えたモデルです。(製品情報)
ART – APEX 220
アメリカのART APEX 220は税込8,800円で手に入る測定用マイクですから気軽に測定にチャレンジしてください。
測定用マイクに限らず一定以上のクラスのマイクはXLRケーブル(マイクケーブル)でオーディオインターフェイスやマイクアンプに接続します。XLRケーブルを持っていない、または長いXLRケーブルがない場合はマイクと一緒に購入しましょう。※通常、3m~6mのケーブルで事足りるでしょう。
iSEMcon – EMX-7150
iSEMcon – EMX-7150は性能、信頼性共にトップクラスのドイツの測定用マイクです。個体ごとの周波数特性を補正するキャリブレーションデータの入ったUSBメモリーが付属します。
IK Multimedia – MEMS Microphone
イタリア IK MultimediaのARC System 3(測定&補正ソフト)やiLoud MTMに同梱される測定用マイクです。単体でも購入可能でRoom EQ Wizardなどの他社の測定ソフトでも使用可能な測定用マイクです。
ARC System 3専用マイクだけあって高域にクセを感じますが、低域補正には影響しません。
beyerdynamic MM1
日本ではヘッドホンのT1などで有名なbeyerdynamicのMade In Germanyの高品質な測定用マイクです。キャリブレーションデータを取得できます。
コンデンサー型測定用マイクロホン(無指向性)
- 拡散音場でのリニアな周波数特性 / 90°以下
- 校正された開回路電圧
- 堅牢でコンパクトなオールメタルハウジング
- 音場への影響を最小限に抑えるナローチューブラー構造
- ドイツ製
測定用マイクの違いによる測定結果の差異は?
測定用マイクによって測定結果にどの程度の違いがあるのでしょうか?
市販されている測定用マイクは数千円から数十万円まで実にワイドな価格帯ですから、いったいどれを選べば良いのか迷ってしまいます。
今回はオーディナリーサウンドでリファレンスのiSEMcon EMX-7150をIK MultimediaのARC System 3に同梱されるMEMS Microphone for ARC Systemと比較してみました。
始めにiSEMcon EMX-7150をスピーカーの前に設置してRoom EQ Wizardで測定し、次に同じ位置にMEMS Microphone for ARC Systemを設置して測定しました。
上の周波数特性グラフは各マイクで測定したスピーカーの周波数特性です。マイクそのものの周波数特性ではないことに留意してください。
周波数特性のグラフからも2つのマイクで測定結果に差異が見られます。特に高域と低域は差が大きくなっていることがわかります。
iSEMcon EMX-7150は元々の特性が非常に優れていることに加えて個体ごとの測定によるキャリブレーションデータが付属されるので測定結果は高い信頼性がありますが、廉価な測定マイクは思っていた以上に精度は低い傾向にあるのかもしれません。
念のため繰り返しますが、MEMS Microphone for ARC Systemは汎用的に使うためのマイクではなくARC Systemで使うマイクです。測定ソフトにも利用できますが、測定結果は参考程度にするのが無難です。
Amazonなどで販売されている5~6千円と格安の測定用マイクを試してみました。比較対象としてPeavey – PVR2を使いましたが、下のグラフのとおりに歴然とした差異があります。ここまで違ってくると測定用マイクとしての品質基準を満たしているとは言えません。例えお試し測定であってもこのようなマイクを使ってはいけません。(早速返品しました)
格安マイクは特性の差異どころか「High measurement distortion」の警告メッセージが100%表示されます。※他の測定用マイクでは表示されません。