高価なスピーカーも無造作に置いただけでは良い音で鳴ってはくれません。
ルームアコースティック対策は高音質再生に最重要ですが、その前にスピーカーをできるだけ望ましい位置に配置することと、スピーカーの振動を設置面に伝えないようにすることから始めて音質向上を目指しましょう。
セッティングのポイントは、スピーカーの高さと向き、それにスピーカーの振動を設置面から遮断(アイソレート)することです。
記事中に設置方法による音の違いを周波数特性で掲載していますから、是非参考にしてください。
セッティング前に確認すること
- ステレオ再生に使う2台のスピーカーは通常は右用・左用といった違いはありませんが、アンプやDACの左チャンネル出力が左のスピーカーに、右チャンネル出力が右のスピーカーに接続されているかを確認します。
- パッシブスピーカーの場合は、更にチャンネルごとにプラスとマイナスの端子があるのでアンプとスピーカーのプラスとマイナスが逆に接続されていないかも確認します。
これらは当然の事と思っていらっしゃる方も大勢いると思いますが、意外にうっかり逆になっている場合もあるので要注意です。(開店以来ずっと左右逆置きスピーカーのジャズ喫茶もありました)
スピーカーの高さと向き
スピーカーを耳の高さに設置する
スピーカーと耳の高さは揃っていますか?スピーカーが低すぎても高すぎても高音は耳に届きにくくなります。高音を受け持つユニット(ツイーター)がおおよそ耳の高さになるようなスピーカー設置を心掛けましょう。
高さを揃えることが難しい場合には、スピーカーを傾けて耳の方向に向くように設置しても構いません。
自分の方向に向ける
スピーカーの高さを調整したら次に自分とスピーカーが向き合うように少し内側にスピーカーを振ります。
家庭でもショップでも、正面の壁(スピーカーの後ろの壁)に平行にスピーカーが置かれた光景をよくみかけます。高い音は直進性が強いので正面からそれるほど高音は届きにくくなります。高音が弱いと感じたらスピーカーの向きを自分の方に向けてみましょう。
スタジオモニタースピーカーの多くは元々が内向き(30度)にセットすることを前提に設計されています。ホームオーディオのスピーカーは必ずしもそのような設計とは限らずケースバイケースですが、高音が弱ければ内向きにすることで多少なりとも改善します。
PIEGAはホームオーディオ向けのスピーカーですが、マニュアルによると内振りを推奨しています。
次の図はリアスピーカーの配置ですが、高い位置に設置した場合はリスナーの向きになっています。
スピーカーの向き(角度)調整におすすめのスマホアプリ
KRK Audio Tools(iOS/Android)はスピーカーの音質向上に役立つ無料アプリです。
このKRK Audio Toolsの機能の「Monitor Align」を使うと、スピーカーの向き(角度)を簡単・正確に調整することができます。
デスクトップスピーカーで鉄則の設置方法を測定に基づいて紹介
スピーカーの高さと向きを揃える話は様々なところで語られますが、セッティングの違いで周波数特性がどのように変化するかの具体的な事例を見かけることはほぼありません。(昔ながらの文学的な表現で語られることばかりです)
そこで、デスクトップスピーカーは配置を変えるとどのように音が変化するのかを周波数特性でご紹介します。検証に使用したのは小型で高音質なデスクトップにも相応しいPIEGA ACE 30です。
設置は以下の3パターンです。
- スピーカーを正面(壁と平行)向きで高さ30mmの御影石とインシュレーターの上にスピーカーを設置
- 1.の状態から各スピーカーを内向き(水平30度)に変更
- 2.の状態からスピーカー下の御影石を高さ180mmのものに変更
次は左右チャンネルごとの上記3パターンの周波数特性です。
- 赤ライン:パターン1
- オレンジライン:パターン2
- 緑ライン:パターン3
設置パターン1と2の比較検証(正面置きと内振り)
初めにパターン1(赤)と2(オレンジ)を見ていきましょう。着目点は6kHzから上の周波数特性の違いです。
正面向きの設置は内振りに比べて音圧レベルが6kHz以上で落ち込んでいます(左右チャンネル共通)。スピーカーがリスナーの方向に向いていないと高域が弱くなくことが明らかです。
※6kHz以下では概ね似たような周波数特性です。
何気にスピーカーを正面向きに設置して高域不足を感じている場合は、内振りにしてみましょう。
設置パターン2と3の比較検証(スピーカーの高さの違い)
パターン1と2ではパターン2の方が高域特性の劣化がなかったので、パターン2の状態からスピーカーが耳の高さに近づくように高い位置に設置(パターン3)しました。
すると高域特性(6kHz以上)が更に改善されいるのは周波数特性グラフからも明らかです(左右チャンネル共通)。
加えて200Hzから6kHzを見てみると、音圧レベルの落差が最も少ないのがパターン3であることもわかります。特に400Hzから600Hz間のピークが軽減されている点は、演奏の不自然なアクセントや耳障りな音質を和らげることに繋がっています。
スピーカーが耳の高さに揃っていないと高域特性が劣化します。高域不足を感じているなら何れかの方法でスピーカーを設置する高さを調整しましょう。
スピーカーの位置を適正にするだけでも周波数特性を改善することができます。
デスクトップ用には小型スピーカーが使われることがほとんどですが、小型スピーカーをデスクトップに置くと小ささゆえに高さ不足になりがちです。水平方向の向きも何故か当たり前のように正面を向けることが多いようですが、正面向きが正しい設置方法ということはなくむしろ内振りにした方が好結果を得られる場合が往々にしてあります。
設置はスピーカーの使いこなしの基本ですが、これだけで音質改善できるわけではありません。設置で解決できない周波数特性の乱れはデジタルルーム補正により最適化することができます。スピーカーは本来の持ち味を存分に発揮して音楽を楽しむことができるようになります。
スピーカーの振動を設置面から遮断
スピーカーは振動により音を発生させる装置です。この振動がスピーカーの設置面に伝わると共振を起こして音質を低下させる(音を濁らせる)原因になるので、振動を遮断する目的でインシュレーターをスピーカーと接地面の間に敷いたり、振動を遮断するスピーカースタンドを使います。
こんなスピーカーのレビューにはご用心
- スピーカーがリスナーに向かって設置されていない
- デスクトップの場合、スピーカーが天板に直置きまたはインシュレーターのみ
- レビュー時の条件が明記されていない
スピーカーがリスナーに向かって設置されていない
スピーカーの向きには水平角と仰角の2つがあります。水平角はスピーカーがリスナーの位置に向いているかどうかですが、ホームオーディオのスピーカーの場合はマニュアルで推奨されている設置が基準となります。プロオーディオのスピーカー(本物のモニタースピーカー)は2つのスピーカーとリスナーの位置関係が上から見て正三角形になるようにスピーカーを30°内向きにするのが基本です。
音楽鑑賞やDTM向けのモニタースピーカーのレビューで内向きになっていない(平行置きである)場合は、高域不足で聴いていると捉えたほうが無難です。
設置されているスピーカーの高さがリスナーの耳の位置から逸脱している場合も、明らかに高域不足で聴いていると捉えてください。ただし、スピーカーに仰角をつけて耳の位置に向かっている場合は高さが合っていなくても問題にはなりません。
デスクトップの場合、スピーカーが天板に直置きまたはインシュレーターのみ
デスクトップオーディオなどでスピーカーを机の天板に直置き(と思われる)の場合は、スピーカー(特にウーファー)と机の天板が近接することによる不要な音の反射、および直置きによる机への音の振動が発生している可能性があります。音を濁らせます。特にガラステーブルなどは注意が必要です。
インシュレーター使用の場合は机への振動伝達は避けられますが天板の反射は避けられません。
机の天板の影響は、スピーカーに仰角をつけて耳の位置に向かっている場合は軽減されます。
レビュー時の条件が明記されていない
レビュー時の試聴環境が明記されていない音質レビューは何の役にも立ちません。特にスピーカーの場合は、部屋の音響特性を整えた上で試聴しているのかどうかで音質・音色は如何様にも変わりますからレビューの鵜呑みは禁物です。プレーヤーやアンプが何であるかよりも部屋対策しているかどうかが遥かに重要です。
ショップで試聴したレビューも同様です。
スピーカーのセッティングとアイソレーションに役立つアイテム
スピーカースタンドやインシュレーターは意外に高価なため敬遠しがちですが、スピーカーの能力を発揮するために欠かせない重要なアイテムです。特にデスクトップにスピーカーを置く場合に見逃しがちですがその効果は絶大ですから、スピーカーをアップグレードする前にチェックしておきましょう。
スピーカースタンド、インシュレーターおすすめ14選を参考にしてください。
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スピーカーを高音質で再生するためにはセッティングを含め様々な工夫が必要です。スピーカースタンドは単なるアクセサリーではありません。スピーカーのマストアイテムです。デスクトップオーディオなら高音質なスピーカー リスニングを容易に実現できます。
デスクトップで良い音を聴くならニアフィールド用のスピーカーを選びましょう。
スピーカーで高音質再生するための最も効果的で低コストな方法はデジタルルームチューニングです。