畳み込み(コンボリューション)はスピーカーの音質の大きな妨げとなるルームアコースティック問題を解決する手段としてベストな方法です。従来のイコライザー(IIRフィルター)では達成できない高水準な補正フィルター(FIRフィルター)を適用することではじめてスピーカーの本来の音質を発揮することができます。
心がけたいことは、FIRフィルターさえ適用すれば良いわけではなく、ルームアコースティックを適切に補正するためのフィルター設計が重要である点です。誤った設計は逆効果です。
Volumioやroon、JRiver Media Center、HQPlayer、Equalizer APOのユーザーであれば、設定項目の中に「畳み込み」や「コンボリューション」の用語を見かけた事があるかもしれません。
- 畳み込み=コンボリューション
この畳み込み(コンボリューション)の設定項目にFIRフィルター(デジタルフィルターの一種)のファイルを読み込ませることで、部屋が原因で失われた本来の音質を回復することができます。コンボリューションによるルームキャリブレーションはオーディオルームと異なり誰にでも利用できる先進的でリーズナブルなスピーカーオーディオシステムのベストソリューションです。
コンボリューションによるルームキャリブレーションは
誰にでも利用できる先進的でリーズナブルな
スピーカーオーディオシステムのベストソリューション
コンボリューションフィルターによる改善効果のサンプル音源
部屋の反射音による音質劣化は定在波が原因で特に低音域に多大な悪影響を及ぼしています。次の動画は、コンボリューションフィルターの改善効果を確認するためにスピーカーの出力音を録音したものです。ヘッドホンやイヤホンを使って次の動画を再生してみてください。※スピーカーで聴いても何の意味もありません。
いかがだったでしょうか?忠実に再生しているのはコンボリューションフィルター:オンであることは歴然としていますね。
一方、コンボリューションフィルター:オフは、まるで洞窟の中で聴いているようなクリアネスも躍動感も失われた音に劣化しています。
スピーカーオーディオシステムの要素はオーディオ機器とルームアコースティックです。
無添加でピュアなスピーカーオーディオシステムにルームアコースティック問題を解決するコンボリューションフィルターは不可欠です。
むやみにコンボリューションフィルターを適用してもルームアコースティック問題の解決にはなりません。ルームアコースティック問題の適切な解決策が盛り込まれたコンボリューションフィルターを使って初めてその有効性が認められます。音楽の躍動感とクリアネスがよみがえります。
ハイエンドオーディオを目指すには適切なコンボリューションフィルターの導入は欠かせません。ハイエンドを目指さなくてもコンボリューションフィルターの導入はリーズナブルに高音質が手に入る有効手段です。
- ソース
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ドラムはDTM等で使われるドラム音源(IK Multimedia MODO DRUM CS 1.5)
- 再生システム
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Mac → DAC(Universal Audio Apollo x6) → アクティブスピーカー(ADAM Audio S2V)
- レコーダー
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Tascam X8(32bit float / 44.1kHz)※リスニングポジションにて収録
- コンボリューションフィルター
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32bit float / 32768tap ※オーディナリーサウンドにて作成
コンボリューションを使うメリット
それではコンボリューションによりどのようなメリットがあるのかを紹介していきます。
周波数特性の癖を除去
普段リスニングしている位置での周波数特性を測定すると、スピーカーのカタログスペックとは似ても似つかない結果になります。リスニングルームの場合は部屋の反射音の影響が多大に加味されますが、カタログスペックの周波数特性は反射音の無い特殊な空間(無響室)で測定しているからです。
キャリブレーション前の元の周波数特性は左右チャンネル共に200Hzあたりの最大ピークを筆頭に随所で音圧レベルが暴れているのに対して、デジタルフィルターによるキャリブレーションで周波数特性が大きく修復されていることがわかります。90Hzあたりを筆頭にディップ(谷)の修復も見逃せません。
スピーカーを含めたオーディオシステム全体の周波数特性がフラットであるということは原音再生(ソース本来の音)の重要な要素の1つですから、コンボリューションによりオーディオシステムの周波数特性が理想の状態に近づいていることがわかります。
左右チャンネルの周波数特性の均等化
ルームアコースティックを意識せずにいると、左右に置かれたスピーカーは同じ型番の製品だから周波数特性も同じであると勘違いしがちです。確かにスピーカーそのものの特性は個体差による僅かな違いに留まるかもしれませんが、実際に聴いている音の周波数特性(伝送周波数特性)は測定結果からわかるように大きく剥離しています。この結果、ステレオの音像定位が曖昧になり空間表現能力が低下したピントのあまいぼやけた音(ベールのかかった音)になります。モノラル音源を再生しても本来のモノラル再生からは逸脱して妙な疑似ステレオになってしまうことが理解できます。
左右チャンネルを重ね合わせて表示するとキャリブレーション前は左右チャンネルの特性が明らかに異なっていることがわかります。まるで左右に異なるスピーカーを使っているかのようです。デジタルフィルターによるキャリブレーションで左右チャンネルの周波数特性の差異が大きく緩和されていることがわかります。
トランジェントの向上
トランジェント(過渡特性)はオーディオシステムで音楽を再生する上で周波数特性と共に重要な要素です。楽器の種類や奏法によって音の立ち上がり立ち下がりのスピードは様々ですから、楽器のスピードに追従できるトランジェントに優れたオーディオシステムは再生のリアリティが増します。アタックの強いドラムなどは音が瞬時に立ち上がりスパッと消えてこそリアリティを感じることはできますが、多くの場合はこうはなりません。(アンプの駆動力とかで解決できる話ではありません)
瞬時に立ち上がり瞬時に立ち下がる論理的な音はインパスルと呼ばれ、インパルスに対するオーディオシステムの応答(インパルスレスポンス)をグラフ化することで特性を知ることができます。次のグラフはFIRフィルター適用前(赤)と適用後(緑)の左右チャンネルのインパルスレスポンスです。FIRフィルターを適用することでインパルス応答が見事に改善されていることがわかります。
インパルスレスポンスについてもデジタルフィルターによる明らかな改善が見られます。
位相特性の改善
雑誌やネット記事などのオーディオ機器の論評で見かける意味不明の表現の1つに「位相の揃った音」があります。位相特性は位相周波数特性としてグラフ化することができ、周波数の変化に伴う位相(単位は角度)の変化を知ることができます。位相周波数特性の良し悪しは音圧周波数特性に比べて聴き取り辛いかもしれませんが、ソースによっては低音楽器のリアリティにつながっているように感じます。
キャリブレーションにより低音から高音にわたる全帯域において位相周波数特性が0度に収束して大幅に改善されています。位相特性の改善に及んではコンボリューションによるFIRフィルター処理の独断場と言うことができるでしょう。
PEQ搭載AD/DAコンバーターによるキャリブレーション品質の限界
パラメトリックイコライザー(PEQ)を搭載したDAコンバーターやAD/DAコンバーターによるルームアコースティックキャリブレーションは、FIRフィルターによるコンボリューション(畳み込み)の代替手段とはなりません。その主な理由は2点あります。
DAコンバーターやAD/DAコンバーターに搭載されたPEQの多くは4~5バンド程度のイコライザーであるため、FIRフィルターのように思うようなイコライジングカーブが作れません。
次のグラフは5バンドパラメトリックイコライザーによる補正イコライジングカーブの例です。パラメトリックイコライザーはベルカーブの形をしたフィルターですから、ルーム補正するには数多くのバンドを使って複雑なカーブを作る必要がありますがそれにも限界があります。
20バンドのPEQを使うとより複雑なイコライジングカーブ(下のグラフ)を作ることができます。※20バンドPEQを搭載したDAコンバーターやAD/DAコンバーターの存在は知りませんが、ソフトのイコライザーであれば20バンドPEQも不可能なことではありません。
FIRフィルターはパラメトリックイコライザーとは構造の概念が異なり緻密で理想的なイコライジングカーブ(下のグラフ)を作ることができます。
上の3つのイコライジングカーブを比較すれば、5バンドPEQがルーム補正には力不足であることが明白です。補正精度が劣ります。
DAコンバーターやAD/DAコンバーターに搭載されたPEQは位相歪みを伴うIIRフィルターです。DIGITAL VOICING EQUALIZER DG-68も同様にIIRフィルターですから位相は歪みます。
畳み込み(コンボリューション)によるルームキャリブレーションの特徴
畳み込みによるルームキャリブレーションは、コンボルバー(コンボリューションエンジン)とFIRフィルターを使います。補正フィルターとなるFIRフィルターを予めコンボルバーに読み込ませておくことで、コンボルバーに入力した音声信号をフィルター処理して出力します。
コンボルバーを利用するにはコンボルバーを搭載した音楽再生ソフトやTrinnov NOVAを使います。Equalizer APOはWindowsのサウンド全般に適用可能なコンボルバーを搭載しています。
- Roon
- Volumio
- HQPlayer
- JRiver Media Center
FIRフィルターの特徴
- サンプリング周波数
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FIRフィルターの留意点としてサンプリング周波数があります。FIRフィルターはソースのサンプリング周波数と1対1の関係にあるため、ソースのサンプリング周波数の数だけFIRフィルターを用意するか、または予めソースのサンプリング周波数をFIRフィルターのサンプリング周波数にリサンプリングします。
Roon・Volumio・JRMCは動作させたいサンプリング周波数のFIRフィルターを読み込ませると、再生時にサンプリング周波数に応じたFIRフィルターに自動的に切り替わります。Equalizer APOにこのような機能はなく単一のFIRフィルターを読み込ませる仕様のため必要に応じてFIRフィルターを差し替えます。
- ビット深度
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コンボルバーの種類によって扱えるFIRフィルターのビット深度は異なります。Roon・Volumio・JRMCは高精度の32ビットフロート・64ビットフロートを扱うことができます。
- タップ
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タップはFIRフィルターのパラメーターの1つで低音域を補正するには多くのタップ数が必要となります。多くのタップ数であっても低音域に対する補正を施したフィルターでなければ意味がないことはハイビット・ハイサンプルのフォーマットと同じことです。
- アナログソースへのFIRフィルター適用
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FIRフィルターはデジタル音声処理ですからアナログソースはADコンバーターを介します。これによりレコード等のアナログソースにFIRフィルターを適用することができます。
- Roonの畳み込み(コンボリューション)の特徴
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Roonは出力先となるデバイスごとにFIRフィルター(畳み込みフィルター)を設定する仕様になっています。マルチルームでの利用を想定したRoonならではの仕様です。
- Volumioの畳み込み(コンボリューション)の特徴
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Volumioは異なるフィルター特性のFIRフィルターを最大5種類プリセット可能な仕様になっています。状況に応じて好みのFIRフィルターに簡単に切り替えることができます。
- JRiver Media Centerの畳み込み(コンボリューション)の特徴
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JRiver Media CenterはFIRフィルターに加えてVSTプラグインホスト機能もあるため豊富なサウンドプロセッサー機能を利用することができます。
- Equalizer APOの畳み込み(コンボリューション)の特徴
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Equalizer APOはWindowsのサウンド全般にFIRフィルターを適用できる点が音楽再生ソフトにないメリットです。YouTubeやネット配信動画の音声にFIRフィルターが使えます。
畳み込みでルームキャリブレーションするには?
畳み込み(コンボリューション)でルームキャリブレーションするための手順は大きく2ステップです。
最初にすることはキャリブレーションの対象となる部屋(リスニングポジション)の音響特性の測定です。自分に合った服をオーダーメードするための採寸と同じです。服ならサイズの決まった既製服でも特に支障はありませんが、音響特性は部屋ごと・聴く位置ごとに大きく変化しますからオーダーメードでなければ成果を得ることは不可能です。
2つ目は測定データを足がかりとしたFIRフィルターによるルームイコライザーの作成です。FIRフィルターはターゲットカーブを柔軟に設定することができるため、フラットな特性に限らず任意の周波数から右下がりの特性(高音域減衰)にすることも右上がりの特性(高域上昇)にすることも更に細かいカーブを作ることも自由です。作成したFIRフィルターをファイルとして書き出すことで、roonなど畳み込みエンジンを搭載したソフトやハードに読み込ませることができます。
ルームキャリブレーションをサポートする商品・サービスの販売
ルームキャリブレーションはオーディオ機器のアップグレードを遥かにしのぐ音質向上効果を得ることができますが、すべてを自力で行うためにはいくつものハードルを乗り越えなければなりません。
畳み込みをはじめとしたルームキャリブレーションを実践するためのサポートが必要と感じたらオーディナリーサウンドを利用してください。サポートとなる商品・サービスを用意しています。
- 音響測定のためのシステム(測定システム)は、不足しているものを追加できるように組み合わせを自由にカスタマイズできます。
- 畳み込みに使うFIRフィルターは必ずしも自力で作成する必要はありません。測定用マイクによる測定データを提供していただきご希望のターゲットカーブをお知らせいただくとFIRフィルターをご提供するサービスをご利用できます。
オーディナリーサウンドが提供する畳み込みフィルターの特徴
柔軟なターゲットカーブの設定
キャリブレーションの目標となるターゲットカーブを数種類(現在7パターン)提供します。次の図はターゲットカーブの基本となるフラットを含むカーブの例です。
- フラットなターゲットカーブです。定在波の悪影響を回避します。
- 1に加えて超低域をカットするカーブです。カットを開始する周波数とスロープをターゲットスピーカーにあわせて変更します。
- 低域を増幅させたカーブで増幅の度合いはdBで指定します。増幅する周波数の上限を指定することもできます。
- いわゆるハーマンカーブです。3に加えて高域を減衰させたカーブです。
- 3に加えて高域も増幅させたカーブです。
※ご希望のカーブを指定することも可能です。事前にご相談ください。
高精度でハイレゾ対応の補正フィルター
サンプリング周波数 kHz | 44.1 / 48 | 88.2 / 96 | 176.4 / 192 | 352.8 / 384 |
最大タップ数 | 65,536 | 131,072 | 262,144 | 524,288 |
- 64bit Float、32bit Float、32bit、24bit、16bit
広範囲なプラットフォームに対応
- Roon、Volumio、JRiver Media Center等の畳み込みエンジンを搭載したプレーヤー
- YouTube、Amazon Prime Video、Netflix、Apple Music、Spotify等の畳み込みエンジン非対応プレーヤー(Windows/Macに対応 )
- レコードプレーヤー、CDプレーヤー
\ 購入その他、気軽にお問い合わせください /
この記事ではルームキャリブレーションの最高峰であるFIRフィルター(畳み込みフィルター/コンボリューションフィルター)についての説明ですが、FIRフィルターの他にもアナログ/デジタルによるIIRフィルターによるルームキャリブレーションの方法もあります。