前回、KORG Nu I のお知らせをしましたが、今回は”今どきのレコーダー事情”にあわせてKORG Nu I の注目点1と2にフォーカスします。機種選定の参考にしてみてください。
おさらい
KORG Nu I 注目点1:DSD11.2MHzで録音
KORG Nu I 注目点2:録音したDSDファイルを分割可能
そもそも何故アーカイブするのか?
レコードなどアナログ再ブームの昨今に何故わざわざアナログソースをデジタルでアーカイブする必要があるのでしょうか?
デジタルソースが無かったアナログだけの時代を過ごしてきた方々なら百も承知の事ですが、レコードを新鮮に感じる若い世代の方々はアナログの優れた点は理解していても欠点には気付いていない場合もあるかもしれません。
アナログソースの最大の欠点は、時間と共に徐々に劣化することです。また、物理的にダメージを受けやすいこともデメリットです。レコードは何回も再生するうちに不意に傷をつけてしまうこともあります。テープは再生ヘッドにテープ表面の磁性体が付着することからも劣化することが容易に想像できます。また、レコードやテープは保管状態にも気を配らなければ、盤面の反り・テープよれなどの変形も起こってしまいます。
ですからレコードやテープの状態が良いうちに劣化の心配のないデジタルデータにしておくことには意義があります。
デジタル化してしまったら折角のアナログの良さがスポイルされてしまうのでは?
低クォリティでデジタル化した場合は、過去に指摘されてきたようにデジタル音源がアナログ音源に及ばない結果になることでしょう。しかし今日では、高水準にデジタル化したソースであればアナログ音源のキャラクターをスポイルすることなく忠実にデジタルデータに変換することも困難なことではありません。近年、レコーディングやマスタリングで一旦アナログのプロセスを経てデジタル化する手法が好まれるのも、デジタル化することでアナログのキャラクターがスポイルされることはないという証ではないでしょうか。
選択肢の少ないホームオーディオのレコーダー
昔だったらホームオーディオにもカセットやオープンリールのテープレコーダーが豊富に存在していましたが、今ではホームオーディオからレコーダーというカテゴリーが消え去った感があります。その中で検討しているのがKORG MR-2000SとTEAC SD-500HRでしょう。共にアナログソースをDSD 5.6MHz、PCM 24bit192kHzで記録できるデジタルレコーダーです。どちらもPCを必要とせず単体で録音できる点がメリットです。
KORG MR-2000S
2018年1110月下旬発売予定のKORG Nu I はアナログソースをDSDで保存できる点は上記の機種と同じですが、DSD 11.2MHz、PCM 24bit384kHz対応でよりハイグレードな録音機能です。PCと接続して録音・再生するタイプ(オーディオインターフェイス)で、ホームオーディオもプロオーディオもターゲットにした意欲作です。
KORG Nu I
プロオーディオは録音できて当たり前
一方でプロオーディオは音楽を作る側の機器ですから録音できなければ話になりません。ホームスタジオ用のローコストなオーディオインターフェイスにもアナログ録音のためのADC(アナログデジタルコンバーター)とアナログ再生のためのDAC(デジタルアナログコンバーター)が備わっています。
ハイグレードなオーディオインターフェイスはマスタリング用にも使われますからアナログ資産のアーカイブとしても申し分ありません。
Lynx Aurora(n)
マスタリンググレードのオーディオインターフェイスLynx Aurora(n)は通常PCと接続して使いますが、PCレスのスタンドアローンでも録音できる利便性も兼ね備えています。(PCM 24bit192kHz、DSD非対応)
レコーダーとオーディオインターフェイスの長所・短所
これまであげてきた機器は単体で録音可能なレコーダー、PCと接続して録音するオーディオインターフェイス、単体でも録音可能なオーディオインターフェイス(Lynx Aurora(n))に分類できます。また録音時の記録フォーマットも様々です。
レコーダーは、PC不要で録音できる手軽さがメリットです。しかしレコーダーは自身に記録メディアを内蔵させるため保存容量的に限界がある点はデメリットになります。なぜならPC側に記録メディア(HDD、SSD等)を持たせた方が性能的にもランニングコスト的にも有利だからです。
オーディオインターフェイスはPCと接続することでPCならではの利便性の恩恵を受けられることがメリットです。記録メディアは容量単価優先にも性能優先にも選択できて、録音後のメンテ(ファイル名変更やバックアップ等)もサクサクです。単体で録音できないことがデメリットですが、PCをプレーヤーとして使っている場合はデメリットにはなりません。持ち出して録音する機会があるならLynx Aurora(n)が良い選択肢です。
Lynx Aurora(n)はexFATフォーマットで最大容量2TBまでのmicroSDカードを装着して使用することが可能な仕様です。※スタンドアローンで録音可能なRME Fireface UFXシリーズはFAT32です。
レコーダーとオーディオインターフェイス、どちらが良いかは好みの問題とも言えますが、広い視野で見ると現状はオーディオインターフェイスが有利に思います。
DSDはファイル分割したい
どのレコーダーやオーディオインターフェイスを使ってもレコードやテープを録音することはできますが、問題は録音した後。CDリッピングと違ってレコードなら片面、テープなら一本が一つのファイルになりますから、録音後の曲の頭出しを一発でできなければ快適とは言えません。これを解決する一般的な方法がファイル分割です。各曲の先頭部分で複数のファイルに分割することでCDリッピングと同様に曲の頭出しができるようになります。
一般的にDSDはPCMと異なりファイル分割できないとされていますが、KORG Nu I の場合は、付属ソフトAudioGateで曲単位にファイルを分割することができます。※RME ADI-2 Pro FSのバンドルソフトはPCMのみ波形編集可能
KORG Nu I は付属ソフトAudio GateでDSDをファイル分割可能
※スクリーンショットはNu Iに付属するAudio Gate 4.5ではありません
DSDでアーカイブするならKORG Nu Iが最有力
これまでアナログ資産をアーカイブするには、多少敷居の高いオーディオインターフェイスよりも単体のレコーダーのほうが広く支持されていたのではないでしょうか。
KORG Nu I は用途をホームオーディオやマスタリングに絞った結果、高音質でシンプルな操作を実現したオーディオインターフェイスです。オーディオインターフェイスはPC録音ソフトの導入も敷居を高く感じさせる要因ですが、KORG Nu I は同社Audio Gateの付属によりシンプルな録音・編集を提供しています。
DSDに拘らずPCMでアーカイブするなら、audient iDシリーズやLynx Aurora(n)が候補にあがります。
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