バイアンプについてホームオーディオでは正しい理解が浸透していません。この記事ではバイアンプと簡易バイアンプ、マルチアンプについて説明します。
バイアンプシステム
2ウェイパッシブスピーカーはパッシブクロスオーバーネットワークによりソースの周波数帯域を低音域と高音域に二分割して、低音域をウーファーに高音域をツイーターに出力します。
バイアンプシステムはパッシブスピーカー内部のパッシブクロスオーバーネットワークを使わずに、ソースをパワーアンプに出力する以前にアクティブクロスオーバーネットワークで周波数帯域を二分割します。分割した低音域と高音域はそれぞれ個別のパワーアンプに出力されてウーファーとツイーターに出力されます。このシステムはバイアンプシステムと呼ばれます。3ウェイの場合はトライアンプシステムです。
次の図は2ウェイのパッシブスピーカーとバイアンプシステムを比較したものです。クロスオーバーネットワークの方式(パッシブ/アクティブ)とアンプのチャンネル数が異なっています。
バイアンプシステムに使うパワーアンプのチャンネル
1台のスピーカーに対して低音域用に1チャンネルぶん、高音域用に1チャンネルぶん、計2チャンネル分のパワーアンプを使うのでステレオ再生システムの場合は合計4チャンネルぶんのパワーアンプを使うことになります。
簡易バイアンプシステム
バイアンプシステムのアクティブクロスオーバーネットワークを使わずに2ウェイパッシブスピーカーに元々内蔵されているパッシブクロスオーバーネットワークをそのまま使ったシステムが簡易バイアンプシステムです。
パワーアンプはバイアンプシステムと同様にステレオ再生システムなら4チャンネルぶんを使いますが、パワーアンプとクロスオーバーネットワークの接続順がバイアンプシステムの逆になります。逆とはバイアンプを使わない通常のパッシブスピーカーのシステムと変わらないということです。
次の図は簡易バイアンプシステムと通常の2ウェイパッシブスピーカーのシステムを比較したものです。
マルチアンプシステム
マルチアンプシステムとは、バイアンプシステム(2ウェイ)やトライアンプシステム(3ウェイ)などの総称です。アクティブクロスオーバーネットワークを使ってマルチウェイスピーカーをマルチアンプで駆動するシステムがマルチアンプシステムです。
バイアンプはマルチアンプと別物ではなく
バイアンプはマルチアンプの中の1つのバリエーション
マルチアンプと別物は簡易バイアンプ
バイアンプシステムを含むマルチアンプシステムは、パッシブクロスオーバーネットワークのデメリットを解消する究極のハイエンドオーディオシステムと言えますが、メリットばかりではありません。
簡易バイアンプシステムを含むパッシブクロスオーバーネットワークによるシステムと比べて大掛かりなシステムになってしまうデメリットがあります。大掛かりとはコスト面と設置スペース、加えて自力で解決できるノウハウです。
マルチウェイパッシブスピーカーならはじめからパッシブクロスオーバーネットワークが内蔵されていますが、マルチアンプシステムではアクティブクロスオーバーネットワークを追加しなければなりません。ステレオ再生なら2チャンネルパワーアンプまたはプリメインアンプで済んだところを2倍3倍のチャンネル数のパワーアンプが必要になります。ケーブルもアクティブクロスオーバーネットワークから各パワーアンプに接続するのに必要な本数のラインケーブルが要ります。スピーカーケーブルの本数も2倍3倍になります。コストがかさみ広い設置スペースも必要です。
今のところ誰にでも構築できるシステムとは言えません。
マルチウェイアクティブスピーカーはスマートなマルチアンプシステム
「スピーカーとアンプの基礎知識」でマルチウェイアクティブスピーカーの構成要素を紹介しています。ここで紹介しているマルチアンプシステムと比較すればわかるとおりに、マルチウェイアクティブスピーカーはマルチアンプシステムをスピーカーエンクロージャー内にビルドインしたスピーカーです。マルチアンプシステムのデメリットであるコストと広い設置スペース、自力で解決できるノウハウの問題を解消するソリューションがスマートに提供される先進的なスピーカーです。
次の図は、簡易マルチ(バイ)アンプシステム、マルチ(バイ)アンプシステム、(バイアンプの)アクティブスピーカーを比較したものです。簡易バイアンプシステムが2ウェイパッシブスピーカーのシステムと大差ないことと、アクティブスピーカーがマルチアンプシステム一式をエンクロージャー内にビルドインしたスピーカーであることが一目瞭然です。
次のリンクはマルチアンプシステムと同一構成のアクティブスピーカーの代表例です。
アクティブスピーカーがパッシブクロスオーバーではなくアクティブクロスオーバーであることがわかる例として、ADAM AudioのAシリーズのブロック図を掲載します。
図のグレーの部分を見ると、入力信号はデジタル変換後に様々な処理を行い最終的にクロスオーバーの後段で各帯域ごとにアナログ変換されアンプに出力されていることがわかります。各アンプの出力はダイレクトに各スピーカーユニットに接続されています。また、精度の高いデジタルクロスオーバーであることもわかります。
ADAM Audio同様に多くのアクティブクロスオーバーネットワークがデジタル方式であるのに対して、スイスのPSI Audioはアナログ方式のアクティブクロスオーバーネットワークを採用しています。
デジタル/アナログ何れの方式であってもアクティブクロスオーバーネットワークとマルチアンプの採用に変わりわなく、究極のマルチアンプシステムがスピーカーシステム内部にビルドインされています。パッシブクロスオーバーネットワークを使うパッシブスピーカーのマルチアンプ化とは別物です。
マルチウェイパッシブスピーカーでバイアンプシステムを構築
市販のマルチウェイパッシブスピーカーをバイアンプシステム化するには、クリアするための問題点がいくつかあります(このため簡易バイアンプシステムが存在します)。
中でも難関はエンクロージャー内部にあるパッシブクロスオーバーネットワークをパスさせることです。パッシブクロスオーバーネットワークをパスさせる機能を持ったスピーカーは滅多にない(ホームオーディオではJBLくらい?)ので、カスタマイズ改造しなければなりません。
パッシブクロスオーバーネットワークをパスできるスピーカーであれば比較的容易にバイアンプシステムに変更することができます。
バイワイヤリング対応スピーカーをステレオアンプ2台を使って簡易的にバイアンプ接続するという方法があります。2ウェイスピーカーのウーファーとツイーターは個別のアンプで駆動されます。
この方法はスピーカーの内蔵パッシブネットワークを使って帯域をフィルタリングする点でバイアンプではない通常のアンプ接続と変わりはありませんから、アクティブネットワークによるバイアンプほどの効果は期待できません。
パッシブネットワークで2台のステレオアンプをあてがうよりも、2台分の価格の上位アンプを使った方が良い結果を期待できます。もしくはステレオアンプ1台でよりグレードの高いパッシブスピーカーを使います。
※バイアンプ接続には通常は同じステレオアンプ2台を使います。
Nmode X-PM5 ×2 vs Nmode X-PM9、amphion Argon3LS vs amphion Argon7LS
対応機種はかなり限定されるようですが、スピーカーに内蔵されるパッシブクロスオーバーネットワークをバイパスできるパッシブスピーカーはマルチアンプ(バイアンプ、トライアンプ等)接続にグレードアップする価値が十分にあります。
シグナルプロセッサーを使うことで帯域分割した音声信号を各マルチアンプに出力することができます。シグナルプロセッサーはデジタルクロスオーバーネットワーク機能で音域を2~4分割できる機種を使います。
一般的なパワーアンプはステレオ(またはモノラル)のタイプが多いですが、4~8チャンネルのパワーアンプを使うことで設置スペースとコストの問題を解消することが可能です。※2ウェイなら4チャンネルアンプ、3~4ウェイなら8チャンネルアンプ1台で済みます。
更にデジタルクロスオーバーネットワーク機能を内蔵したマルチチャンネルパワーアンプもあり、これまで困難とされていたシンプルな機器構成を実現することが可能になります。
Alcons AudioのALC Sentinelは、ローパス/ハイパスを含むFIRフィルターを内蔵した4チャンネルパワーアンプです。
- チャンネルデバイダーとシグナルプロセッサー
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チャンネルデバイダーと呼ばれる機器があります。クロスオーバーネットワークの機能を単体の機器にしたもので以前はアナログでしたが現在はほとんどがデジタルに置き替わっています。
チャンネルデバイダーは機種の選択肢が狭く、チャンネルデバイダー機能を含んだシグナルプロセッサーが性能的にも価格的にも有利と言えます。※シグナルプロセッサーの機能名称としてもチャンネルデバイダーではなくクロスオーバーが使われます。