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音楽再生だけでは勿体ない:他所では書かない本当のPCオーディオの姿

ADAM AUDIO T7VとMac mini

PCオーディオ上級編

PCはプレーヤーとして利用する以外にも音楽再生環境全般に渡って多くの恩恵をもたらします。

音楽プレーヤーとしてだけにPCを利用するのは実に勿体ない話ですから、PCオーディオの真骨頂を堪能しましょう。

目次

これからのPCオーディオ=従来のPCオーディオを含めた音楽再生のトータル環境

現在語られている“PCオーディオ”は従来のプレーヤー(CDやレコード)の置き換えに過ぎません。しかしパソコンが音楽再生に役立つのは音楽プレーヤーに限ったことではありません。

パソコンで高音質化と言えば、多くはパソコン自体あるいはUSB DACを含むプレーヤーとしての高音質化の説明です。しかし、パソコンはオーディオシステム全体のウィークポイントを発見し改善することのできる従来のオーディオには存在しない第4のオーディオ機器としても利用可能です。

音楽再生のトータル環境

上の図は、グレーの部分が既存のPCオーディオを現しています。ご存じのとおり、PCの音楽再生ソフトの出力音声をDACでアナログ変換してヘッドホン/イヤホンやスピーカーで聴くことができます。

青い部分が再生以外にもPCを活用できる部分です。DACと逆動作のADC(アナログデジタルコンバーター)と音声編集ソフトはレコードなどから音楽ファイルを作ります。マイクとADC、測定ソフトは部屋を含む総合的な音響特性を見える化します。オーディオプラグイン(ソフトまたはハード)は、音響特性の問題を改善したり真空管等のサウンドキャラクターを付与します。

PCのオーディオ機能は音声出力だけではありません。
PCの音声入力を活用してはじめてオーディオに取り入れる価値が見出されます。

プレーヤー以外でPCが音楽再生にもたらす主なメリットは以下の3点です。

  • オーディオレコーダーとしてアナログ資産を継承する
  • ルームアコースティックを把握してこれを元に改善する
  • プレミアム・ヴィンテージな名機のサウンドキャラクターを取り入れる

オーディオレコーダーとしてアナログ資産を受け継ぐ

昔ならカセットやオープンリールなどのテープレコーダーやそのデジタル版であるDATがありましたが、現在はこれに置き換わるレコーダーは皆無に等しい状況です。音楽CDならリッピングすることでレコーダー要らずですが、レコードやテープ、MDの音源を音楽ファイル化するにはデジタル音声で録音する必要があります。

アナログ音声信号をデジタルに変換してPCに送り出すADC(アナログデジタルコンバーター)機能を搭載したオーディオインターフェイスと音声編集ソフトを使えばPCは高性能なデジタルオーディオレコーダーとして利用できます。MDなどデジタル音源の場合はアナログデジタル変換せずにデジタル信号のままで録音することも可能です。

iD14mkⅡ
アナログ/デジタル入力対応オーディオインターフェイスのaudient iD14mkⅡ
Aurora(n)
AURORA(n):スタンドアロン(PCレス)でも録音可能なプロが認めるマスタリンググレードDAC、ADC

実時間を要する録音作業はCDの取り込みに比べると少々手間ですが、貴重な音源を所有している場合はPCに取り込む価値は大いにあります。また、アナログ音源のバックアップとしても有効な手段です。カセットテープレコーダーとは比べ物にならない忠実度の高い高音質な録音ができます。

アナログ音源から音楽ファイルを作る録音ソフトは豊富な有償無償ソフトから選ぶことができます。ハードウェアのレコーダーに比べて同等以上の機能・性能ながらもローコストで入手できる点も魅力です。

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デジタル化がもたらす更なる恩恵…あの曲はどのメディアに入ってたっけ?

メディアの混在

音楽の再生メディアは、CD・ダウンロード配信・ストリーミング配信・レコード・その他と多種多様です。選択肢が増えたことは一見喜ばしいことのように思われますが、実際には多様化により聴きたい曲にリーチし辛い状況になっています。

例えばあるアルバムを聴こうとします。「はて、あのアルバムはレコードで持ってたっけ?いや、CDだったかな?いやいやストリーミング配信で聴いたのかも。。。」などなど。昔のようにレコードプレーヤー(またはCDプレーヤー)一択の時代の方が聴きたい音楽にすぐに辿り着けて良かったとも言えます。

レガシーメディアの問題点:1つのメディアフォーマットだけで音楽コレクションを完成できない

音楽再生メディアが多様化したことによる前述の問題は、”好みのメディアフォーマットに統一すれば良いだけの事”と単純に割り切る事はできません。レコードが好きだからと言っても絶対にレコードでは入手できない名アルバムは数多く存在しますし、CDその他のメディアの場合も同様ですから再生メディアの一本化は不可能です。

更に、音質が良くなったリマスター盤の登場で魅力を増したアルバムも沢山ありますが、リマスター版はダウンロード配信やストリーミング配信だけで提供されているものも少なくありません。コレクション全楽曲が一種類の再生メディアで聴けることが音楽ファンにとっての理想ですが、これを叶えられる人は極めて稀でしょう。(数枚~数十枚のCDやレコードしか聴かない人は少ないと思います)

CDやレコードを音楽ファイルに変換して楽曲を一元管理

CDはリッピング(CD取り込み)することで音楽ファイルに変換することができます。レコードもデジタル録音することで音楽ファイルに変換することができます。

CDもレコードも音楽ファイルに変換することでダウンロード購入した楽曲と同じメディアフォーマットとなりパソコンで音楽を聴けるようになります。

楽曲をファイルで扱うメリット

楽曲をファイルとして扱うと、CDやレコードでは実現できない数多くのメリットをもたらしてくれます。

メリット

所有する楽曲全てを1つのメディアに保存できる

SSDやハードディスク等の小型で大容量のメディアに所有曲全てが収まります。

ディスクの収納スペースが不要
別のアルバムを聴くには、レコードやCDならディスクを入れ換えなければならないがPCはその必要がない
所有する楽曲全てを1つのメディアに保存できる

SSDやハードディスク等の小型で大容量のメディアに所有曲全てが収まります。

省スペース

CDやレコードのラックが不要となり、占有していたスペースを有効活用できます。>> 断捨離にもつながります。

アルバムアートワークや曲名などのメタデータを付与できる

ファイルで楽曲を扱うことで曲名やアーティスト名、ジャケット写真その他多くの付加情報を持たせることができるので、CD・レコードラックを使ったライブラリー管理では実現できない柔軟な並べ替えや検索ができます。アーティスト名で並べ替える、リリース順でアルバムを並べ替えるなど瞬時にやってのけます。
※ネットワークオーディオの場合は、メタデータを編集するためにパソコンが必要になります。

簡単・確実・ローコストなバックアップ

レコードやCDは劣化を伴うメディアですからバックアップが望まれますが、バックアップとなると同じものを複数枚所有しなければならず現実的ではありません。PCオーディオなら、音楽ファイルを簡単・高速・ローコストにバックアップできます。

レコードやCDとは異次元の音楽ライブラリー管理

ライブラリー管理については既にiTunesその他の音楽再生ソフトで活用されている方も多いことでしょう。

レコードやCDのライブラリー管理の欠点

レコードやCDの場合は、音楽ライブラリーの管理と言ってもラックに収納したディスクの並べ方に工夫を凝らすくらいしか手はなく、ライブラリーが増えるほどに聴こうとする楽曲にアクセスすることが困難になりがちでした。

ラックを使った分類整理
夢のようなPCのライブラリー管理

PCで音楽ファイルを扱う場合は、CD/レコードのライブラリーの問題をいとも簡単に解決してくれます。アーティストやアルバム、曲名で絞り込んだり並べ替えたりとPCが瞬時に行ってくれます。クラシックの場合などは、作曲者・指揮者・演奏者など様々な視点で音楽に辿り着くことができる点は特筆ものです。CDやレコードのライブラリー管理ではとても真似することはできません。

Audirvana

音楽ファイルには楽曲に関する様々なタグ情報を含めることができるため、このようなライブラリー管理を実現することができます。PCオーディオを実践していてもタグを使わずフォルダー仕分けだけで管理しているのは実に勿体ない話です。フォルダー仕分けによるライブラリー管理は、レコードやCDメディアのライブラリー管理とほぼ変わりはなくラック不要の省スペースを実現しているだけです。

音楽ファイルはPCの他にもネットワークオーディオなどで再生することができますが、ライブラリー管理はPCに比べて劣ってしまいます。

関連記事:音楽再生ソフトのおすすめ:Windows/Mac

マイ コンピレーションアルバムがいとも簡単に

お気に入りの曲を続けざまに再生したい場合、CDやレコードではその都度ディスクを入れ替えなければなりません。ディスクを入れ替えることなく連続再生するために、昔はオープンリールやカセットなどのテープレコーダーに実時間をかけて順番に録音したりしていたものでした。そうでなくても、車のドライブ用にレコードやCDをカセット・MDに録音した経験のある方もいらっしゃると思います。

音楽ファイルなら、プレイリストという方法で複製することなくオリジナルの曲集を作ることができます。プレイリストは曲順が書かれただけのリストですから、実時間をかけて録音することもファイルコピーすることもなく瞬時に作成・編集することができます。

※ 車にPCを持ち込めない場合でも、プレイリストの曲をSDカードその他の車で再生できるメディアに保存すれば良いだけです。車でBluetoothが使えるなら、スマホやタブレットの音楽をワイヤレスでカーナビに接続できて更に快適になります。

プレイリストとは

連続再生したい曲をまとめたリストのことです。音楽再生ソフトでプレイリストを再生するとプレイリストの曲順で再生されます。

音楽再生ソフトは複数のプレイリストを作ることができます。また、Spotifyのように多くのプレイリストを容易に管理できるように、フォルダーにプレイリストを仕分けることができる音楽再生ソフトもあります。

レコードやCDでプレイリストと同様のことをするには、カセットデッキのようなレコーダーに1曲ずつ録音していかなければなりませんが、PCオーディオなら音楽再生ソフトで曲を次々と追加するだけで瞬時にプレイリストを作ることができます。曲順を変更したければ作ったプレイリストの曲順を並べ替えるだけでよく、録音し直す必要もありません。

アナログ音源をデジタル化する利点のまとめ

音楽再生メディアが多様化しカオス状態になっている現状では、パソコンを音楽再生システムの中枢に置くことがベストソリューションです。レガシーメディアを音楽ファイルに変換することで音楽を一元管理できるばかりか、スマホやタブレットをスマートなリモコンとして利用でき快適性がさらに向上します。

昔なら”PCで音楽再生なんて、ありえへん!”でしたが、もはや音質への課題はクリアされ更には利便性・柔軟性・拡張性等多くのメリットをもたらしてくれます。

ネットワークオーディオではCDやレコードを音楽ファイルに変換きない

音楽ファイルを再生する点ではネットワークオーディオもPCオーディオと同じですが、ネットワークオーディオ(NAS+ネットプレーヤー等)ではCDやレコードから音楽ファイルを作ることはできず、結局PCの助けが必要になります。

※PCレスでCDをリッピングする手段はありますが、多くの場合は簡易的なリッピングとなりPCには敵いません。レコードはデジタルオーディオレコーダーを使えば音楽ファイル化できますが、デジタルオーディオレコーダーは影を潜める一方です。

音楽ファイルに加えてストリーミング配信の音楽も一つのライブラリーとして扱えると一気に問題解決するのですが、現状は過渡期といえる状況で解決までにはもう少し時間が必要かもしれません。今のところは音楽ファイルを扱うソフトとSpotifyなどのソフトを併用することになります。※一部のソフトやサービスでストリーミング配信と音楽ファイルの一元管理は既に実現していますが、費用対効果を含め現実的とは言い難い状況に思います。

ルームアコースティックを把握して改善する

音楽鑑賞にスピーカーを使う場合は、スピーカーから出力される音に部屋が与える悪影響を如何にして軽減するかが、音楽を本来の高音質で聴くためのキーポイントです。このことを知ってはいてもなかなか実践できていないのが実情です。

測定用マイクをオーディオインターフェイスを介してPCにつなぐと、部屋がどれほど再生音に悪い影響を与えているかがグラフや数値として具体的に見えてくるので、誤ったルームアコースティック対策を回避するのに役立ちます。

更に、PCのオーディオプラグイン(ソフトまたはハード)を使うことでルームアコースティックが引き起こす問題を補正して回避することも可能になります。その結果、オーディオ機器をグレードアップする以上の効果を得ることができます。

 VoiceMeeter Bananaのイコライザー
VoiceMeeter Bananaのイコライザー

ルームアコースティックとは無縁のヘッドホンオーディオとてヘッドホン自体の最適化と個々のリスナーへの最適化が高音質化につながります。ヘッドホンは左右の特性に個体差が見られることがあるため、マイク測定による補正で音質改善することがあります。

このように、パソコンは部屋を含めた再生環境全体を最適化し高音質化する最強のオーディオ機器となります。

関連記事:ルームアコースティック記事一覧

プレミアム・ヴィンテージな名機のサウンドキャラクターを手に入れる

オーディオの高級機やヴィンテージ機は、その機器でなければ出せないサウンドキャラクターがあり重宝されています。真空管による色付けもその一つです。

高級機やヴィンテージ機を入手することは容易ではありませんが、PCのソフトウェアやハードウェア(周辺機器)を使うとそれらのサウンドキャラクターを簡単に再現することができます。(エミュレーション機能)

Fairchild Tube Limiter
UNIVERSAL AUDIOのプラグインソフトで再現可能な伝説の名機Fairchild 670

音源によっては何も足さず何も引かないピュアな状態よりも真空管などを通して色付けしたほうが魅力の増す音源も少なからず存在しますが、PCを利用することでこの効果を得ることができます。躍動感をあまり感じない(元気のない)音源を魅力的な音楽として蘇らせるためにも有効な手段です。

パソコンはソフトやハードのプラグインにより多様なオーディオプロセッサーの役割を担います。TuneBrowserJRiver Media CenterVoiceMeeter Banana等のソフトでこのプラグインを利用します。

音源がマスタリングされた環境や時代背景にあわせてオーディオシステムを最適化することで本来の音源のクォリティを再現できる場合があります。
再生環境がマスタリング時のモニターシステムやルームアコースティックと異なると、本来の音の再現とはほど遠いものになってしまいます。トランジスタアンプ登場以前のマスタリング環境で使われた真空管アンプは音を着色するため、再生環境においても真空管のサウンドキャラクターを付加することが好結果につながる場合があります。

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